第3話 混乱する世界
次の日の朝になると、テレビでは昨日の出来事が大々的に報道されていた。
瓦礫で崩れた建物を背にアナウンサーが現場の状況を説明している。
「宇宙人が襲来した
「ご覧のように街の建物がいくつも破壊されており、住民の中には行方不明になっている方もいます」
「現在自衛隊と警察が協力し、大規模な捜索が行われていますが・・・」
私はテレビを見ながら、朝ごはんの食パンに齧りついていた。
今日は紫姉さんが料理をする日だったので、いつもよりも格段においしく感じる。
隣で一緒にテレビを見ていた紫姉が学校からの連絡を伝えてきた。
「高校の入学式は1週間くらい延期するんだって」
「そうなの?」
「うん、昨日の宇宙人達に校舎が壊されたから、応急修理が終わるまでは体育館が使えないんだって」
「ふ~ん」
ひとまず1週間は学校に行かなくていいことを知って安心した。
事件も一大事ではあるのだが、何よりも大変なのはこの体のことである。
あと1週間以内に元の体に戻らなければ、この体のまま入学式に出席することになってしまうからだ
「紫姉の大学は?」
「私はもう単位取り終わってるから、元から大学に行く必要はないよ」
紫姉さんは今年大学4年生になるのだが、すでに卒業に必要な単位をすべて取得したらしい。
おかげで今年はほとんど大学に行かなくてもいいそうだ。
なにそれうらやましい・・・
「ふふ、ということはあかりちゃんともっと一緒にいられるんだね」
「あ、まずいかも」
何かと私に過保護な紫姉は長期休みがあるとすぐにかまってほしいと迫ってくる。
春休みの間も着せ替え人形にされるのはもちろん、リビングにいるときなんかはしょっちゅう抱きしめてくるのだ。
「はい、ぎゅう~」
「紫姉暑苦しい・・・」
この体になってからは以前のように女性に抱きしめられて緊張することがなくなっていた。
やはり性別が同じになったことで考え方にも変化が起きているらしい。
今では春の気温の高さも相まって暑苦しく感じるだけだ。
それから部屋に戻り、ネットで情報を集めることにした。
やはりというか、どのネット記事も昨日の事件を記事にしている。
すると探した記事の中で気になる内容を見つけた。
官崎市に襲来した宇宙人を倒した謎の少女
昨日、官崎市に突如として宇宙船が出現した。
宇宙船は一定の高さまで地上に降りてくると、宇宙船の搬入口から続々と怪人を投下し始めた。
最後にビルの大きさ程の巨大な怪人を投下すると、宇宙船はそのまま浮かび上がって空に消えてしまう。
一方、街に投下された怪人たちは地上に降り立つと、強靭な肉体を用いて建物を破壊し、さらには街の住民をも襲い始めた。
そんな危機的な状況で全身に近未来的な武装を装着し、人知を超えた力を持つ少女が怪人を次々と殲滅し、やがて街の中心でほとんどの怪人を倒してしまった。
地域住民からは正義のヒーローと呼ばれ、我々が取材をした女子高生のAさんはもう一度会ってお礼が言いたいと感謝を述べていた。
警察もこの少女が宇宙人と何らかの関係があるのではないかと行方を追っている状態だ。
今後もこの少女についての新たな情報が得られることを我々は願っている。
「この記事のことが本当なんだとしたら、しばらくは変装が必要そうね」
昨日紫姉が下着を買いに行ったときは街が混乱していて、わざわざ隣町の店に車で買いに行ったそうだ。
「武装を解除したら髪色が戻ったから、多少変装すれば大丈夫かしら・・・」
変身時はきれいな白髪だった髪は、武装を解除した瞬間に元の黒髪に戻っていた。
あの目立つ白髪が無くなったおかげで誰も私が武装少女だと気が付かないはずだ。
その後部屋でのんびりとくつろいでいると、何故かチャーランが慌てた様子で私に話しかけてきた。
「あかり!リビングのテレビを今すぐ見るんだ!」
「え?」
チャーランに言われるがままリビングに向かうと、すでに紫姉がソファに座りながらテレビを見ていた。
テレビでは日本だけでなく世界各地の放送局のカメラからのライブ中継が行われている。
ニュースのアナウンサーは驚愕した表情をしながら、現在の状況を伝えていた。
「現在先進国を始め、世界各地で宇宙船と思われる飛行物体が飛来しています!」
「宇宙船は先日官崎市に飛来したものと同じものとみられ、怪人の危険性を考慮し、すでに住民の避難が始まっております」
アナウンサーが台本を言い終えたところで、宇宙船から謎の機械音声が流れ始めた。
どうやら海外ではそれぞれの国の言語で音声が流れているらしい。
「地球の皆さんこんにちは、我々はシメン星を母星とするシメン星人であなたたちで言うところの宇宙人です」
「我々の目的はただ一つ、地球の資源を根こそぎ頂くことです」
「我々の邪魔をしなければ、あなたたちに危害を加えるつもりはありません」
「地球の皆さんにはよいご判断をしていただきたいと思います」
機械音声が終わると、各地に襲来した宇宙船が次々と上空に飛び上がり、一瞬にして消えてしまった。
「チャーラン、これからどうすればいいの?」
「前にあかりに伝えた通りだよ、君にはシメン星人を倒して地球の守護者になってもらいたい」
「あかりちゃん一人だと難しいでしょ?」
紫姉の言う通り、私一人では到底守り切ることができないだろう。
「そこは考えてるさ」
「まずはあかりにちょっと付いてきてもらいたいところがあるんだ」
「どこよ?」
「それは付いてからのお楽しみだよ」
それからチャーランに連れられるまま、家の外を10分ほど歩いた。
近くには小さい頃よく利用していた公園がある。
「ここだよ」
チャーランが指を指したのは公園のトイレの扉だった。
「ただのトイレの扉じゃないの?」
チャーランは「まぁまあ見てなよ」と言いながら、いつの間にか手に持っていた端末を操作し始めた。
するとトイレの扉がエレベーターのように下に移動し、それと入れ替わる形で新しい扉が出現する。
そして扉を開けると、近未来の化学室に繋がっていた。
「ここは僕の実験ラボだよ、宇宙船の残骸を再利用して、この部屋を建てたんだ」
「ここで武装少女の武装を修理したり、新しい武器を開発したりもするよ」
実験ラボを見渡していると、一つだけ気になる装置を発見した。
装置はカプセルの形をしていて、人間が立ったまま一人だけ入れる大きさをしている。
「これは何?」
「転送装置だよ、これがあれば世界中のどこへだって一瞬で飛べるんだ」
まさか某青猫の秘密道具をこの目で見ることになるとは思わなかった。
こうなると○○コプターや○○〇ライトもあるかもしれない。
「この場所に性別を元に戻す装置はないのかしら?」
「それは無いけど、体内の因子の量を図る装置ならあるよ」
チャーランに案内された装置は温度計のような形をしていて、ガラスの中の液体は中心で赤と青に分かれている。
先端には銀色の金属が付いていた。
「この装置の銀色のところに触れると、体内の因子の量を図ることが出来るんだ」
チャーランの言う通り、銀色の部分を触ると、中心から青色の液体が赤色に変化していく。
やがて赤色の液体が70の目盛りで止まった。
「今は体内の因子が7対3の比率で、まだまだ女性の因子が多い状態だね」
「けど変身した瞬間はもっと多かったはずだから、このまま変身せずに待っていれば数日で元の体に戻ると思うよ」
それを聞いてとても安心した。
危うく女の子の状態で学校に通う必要があったからだ。
男装をするとという手もあるが、この大きな胸や長い髪の毛は誤魔化しようがない。
チャーランの実験ラボを後にし、そのまま家に帰った。
それから一週間が経過し、今日は入学式の日である。
この一週間は紫姉がやたらと構ってくる以外はとくに変わったことはなく、チャーランの言う通り数日で元の体に戻ったため、入学式は無事に男の状態で迎えることが出来そうだ。
シメン星人も何故か一度も地球に攻めてくることはなかった。
宇宙船の一件以来、一度世界中がパニック状態となったが、最近ようやく落ち着きを取り戻してきたようだ。
各国の首脳たちが集まって国連で幾度と対策会議を開いていたが未だに解決策は出ていない。
このまま何事もなく平和な日常を送れることを願うばかりである。
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