第2話 アイテム欄

「とりあえず…何かしらしないといけなそうですね…」


二度寝をしていたら会長に叩き起こされ、少々説教を食らったあと、これからの方針について話していくことにした。なんだか、堅苦しいなぁ…


「服に関しては、僕たちが事故ったときに着てたのしかなさそうだな。他の荷物があったら楽だったんだが…」

「無いものはないんですよ。しかも、こんな重大な役職を貰ってしまったからには、魔王を護らないといけないので…」


ふと気づく。そんな重大な役割を押し付けられたからには何かスキルなるものが無ければおかしいのではないのかと。


人差し指と中指を付け合せ、下にスワイプしてみる。昔見ていたアニメで、アイテム欄を表示させる方法がこれであったため、試してみるが、特に何も起こらない。


「何してるの……」

「いや、護るっていう使命があるし、スキルとかいうファンタジーまがいな物を貰っているんだから、表示させる方法がないとおかしいよねって。」

「あぁ、まあ、確かに。」


そう言いながら、会長も同じようなことをする。長くなりそうだなぁ…


「「…………」」

黙々とパターンを変え続け、模索すること体感三十分。諦めかけた時、後ろから喜びの声が上がる。


「やった!開いたよ!これでアイテム欄が開ける!」

「え?マジで!?」


振り向いた瞬間、「ごめえぇぇぇん!」という声とともに、頭同士が思いっきりぶつかる。途轍もない勢いだったため、目に火花が飛び散る。やべ…なんか昔の記憶が…


「ちょっと、しっかりしてよ!」

なんとか会長の声で意識を取り戻す。目眩はまだ残っているが、脳震盪などは起きていないようだ。


「なんで…こうなった…?」

「そ、それは……」


あの時、スキルとアイテム欄が乗った画面を表示できた会長は、それはそれは大変嬉しかったらしく、立ち上がって飛んで跳ねたらしい。そして、跳ねて着地した瞬間、近くにあった小石に躓き、反射的に体を捻った結果、こうなったらしい。


「全く…とりあえず、足見せろ。捻ってるかもしれないだろ?」

「えっ…いや、大丈夫だって!痛くないし…」

「とりあえず見せろ。」


嫌がる会長だったが、無理やり足を見る。

「あー、だろうと思ったが…」

変な方向に捻じ曲がったのだろう。足首が酷く腫れている。骨折や脱臼の可能性もあるため、下手に触らないほうが良いだろう。


「添え木とかあったら良いんだが…」

周りを見渡すが、辺り一面が芝生で、木が生えているような場所がない。


「なぁ、アイテム欄ってどうやって開くんだ?」

「え?あぁ、言ってなかったね。右手で銃を作るように、握っている状態から、人差し指と親指を立てて、こう、クイッとやったら開いたの。いてて…」


言われた通りに銃を作って、九十度上に回すと、アイテム欄が開いた。すっげぇ開き難いな!これ!

アイテム欄には、剣が一つポツンとあるだけで他のものは無かった。

その剣をドラックして、画面左上にある自分の全身画像の右手に移動させる。


「ファンタジーだな…ほんと……」

全身画像の右手に移動させた剣は、自分の右手に収まっていた。なんとも、鞘がついているため、移動させた際に自分を傷つけてしまうということはほとんど無さそうだ。


添え木が確保できたため、会長の足首に自分の上着とともに巻きつける。これで足首は動かないだろう。


「簡易的な応急手当はした。ただ、痛みとかは緩和できてないから気を付けてな。あと、羽目を外さないように。」

「ご、ごめんなさい……」

「はぁ……」


僕は会長に背を向け、屈む。理解していないようだったので、言葉を付け足す。


「ほら。乗って。おぶってやるから。」

「え、え、いやいや!歩けるから!全然!」

「嘘つけ。その足で歩くっていうのは無理だ。そもそも今の状態でも相当痛いだろ。もし、無理に歩こうとするのだったら、更に悪化して足を切断せざるを得ない可能性だってあるんだぞ?」

「う…」


最後の方はハッタリだが、それくらいしないと頑固なので、自分の足で歩くと言い張るだろう。


「わ、分かったよ。乗れば良いんでしょ!乗れば!」

ふわっと体を浮かばせ、腕だけの力で軽々と僕の背中に乗る。バスケ部の彼女は、最近腕を鍛えていると耳にしたことがあるが、それでも足を使わず背中に乗るという行為には思わず感心してしまう。


「……軽いな」

「…っ?!」

思わず口にしてしまったが、その瞬間、自分の顔が熱くなる。

(なんで口走ったんだ…?今…)


その後、沈黙が二人の間に流れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

命題、魔王様をお守りせよ。〜スキル『全振り』を手に入れた僕は、運をひたすら強化していきたいと思います〜 むぅ @mulu0809

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ