命題、魔王様をお守りせよ。〜スキル『全振り』を手に入れた僕は、運をひたすら強化していきたいと思います〜

むぅ

第1話 命題

「楽しかったなぁ!」

「あぁ、そうだな…もう、僕たちも卒業か…」

 僕は猫矢 快。中学三年生。偶々バスの席が隣になった親友の大久保 空人と一緒に駄弁っている。


 今は修学旅行の帰り道、生憎の雨なので若干頭が痛い。キンキン聞こえる大久保の話を素っ気なく振る。

 早くこいつの話が終わんねぇかな…そう思っていると、前方をぼーっと眺めていた藍田が急に叫ぶ。

「なんでトラックが突っ込んできてんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 刹那、激しい衝撃とともに、爆発音が鳴り響く。

 シートベルトがその一瞬で焼き切れ、外に投げ出される。


 体には酷い火傷の跡。もう助かることはないと物語っているようだった。

「それでも……僕は……まだ……」

 痛みを噛み殺し、バスから逃げるように匍匐前進をしていると、もう一度爆発が起こり、人の胴体ぐらいのサイズがある破片が上から落ちてくる。


「うそ…だろ…」

 それに脚が押し潰される。感電と似た痛みを一瞬だけ感じ、そのまま視界が暗転した。




 何か柔らかいものに包まれ、思わず寝返りを打ってしまう。だが、寝返りを打っても柔らかさは変わらなく、安心する香りも相まって、もう一度熟睡しそうになるが、背中への鋭い痛みで飛び起きる。


「いっ……あ……」

 文句を言ってやろうと思ったのだが、顔を赤くし、目つきを鋭くした会長が胸を抑える。その時点で、全てを察する。


「あ…スイマセン…」

「変っ……態……」


 こちらに嫌悪の視線を向けてきているため、全力で誤解を解こうとする。このままだと本当に色々と終わる!

「いや、言い訳をさせてほしい。僕はさっきまで寝てたと言うか、気絶していたと言うか……それで、双丘の間に偶々居たと言うか…」


 それでも尚、疑惑の視線を痛いほど浴びていると、天から女性の声がする。

「はい、はい。そこまでそこまで!誤解を解くために言うけど、転送したときに偶々そういう風になっちゃっただけだから。」


 見惚れてしまうような、だが、何処かに憐れむような顔をしている美女がそこには居た。この状況に戸惑いを隠せない僕たちを微笑で流し、話を続ける。


「ごめんね~ちょっと戸惑っているかもしれないけど、話を聞いてくれる?まぁ…私が誰なのかを君たちに教えようか。私はです。突然で悪いけど、君たちには、ちょっとに住んでもらいたくてね。一から作り上げたやつなんだけど、ちょっと今ギスギスしてるんだよね…なんとも、目を離した隙に魔王とかいうやつが出来上がっててさぁ…」


 あぁ…なる、ほどぉ?

 この先の展開が容易に想像できるんだが…どうせ、その魔王をクラスメイトで殺してくれってことでしょ。よくあるラノベみたいな…


「でもねぇ、その魔王は実力があるってだけで魔王にされちゃったんだよね。最初は慈善活動だけしている善良な御一行だったんだけど、個々が強すぎてね。段々と敵視されちゃうようになったんだよ。それでなんやかんやあって、魔王が爆誕したっていうね…全く、平和な世界を作ろうと思ってたのに…」


「それで…私達は魔王を倒すんですか?いい人そうですけど…」

 会長の質問に悪い笑みを浮かべながら、神が次の言葉を発する。


「いいや。それは別の人に伝えてあるよ。気付かないかい?。」


 疑問から確信に変わった。やっぱりそうだ。僕たちは…

「「魔王を護る側…」」


「お二人さんせいかーい!そう!君たちには役職『情報伝達者スパイ』を与える。命題、魔王様をお守りせよ。なんてね。」


 ケラケラと笑っているなんとも無責任な神を見て、少しばかりの憤りを感じる。突然連れてこられてラット扱いかよ…


「あ、でもそんなに私鬼畜じゃないから、勿論『スキル』なるものも与えるよ。うん。そんなに二人共恨めしそうにするのは止めて?」


 スキルという名に、若干のロマンを感じ、とりあえずは普通の眼差しに戻す。それを見て安心をしたのか、先程のようなヘラヘラとした口調に戻る。


「まぁ……情報伝達者の存在は他の人にはバレていないから安心して。でも、君たちが知らない役職は一杯あるからね。注意しといてよ。でも、これだけは教えてあげる。君達以外のにはこのように伝えてあるよ。『この世界には様々な罪を犯し、幾千もの屍の上に立っている極悪非道、史上最悪の魔王がいる』ってね。」


 ふと、疑問に思ったことを口にする。これがどうなっているかによってこの役職の面倒臭さが格段に違ってくるからだ。


「なぁ、その別の教えを受けている人の中に、なんだろ…僕たちのダミー?なるものはあるのか?感づくやつは居るだろ。」


「あぁ。安心しな。そういうことの対策方法として、ちゃんと君たちの日常会話を全て学習させた、精巧なロボットが居るからそこら辺は安心してほしい。あと、クリアの判定は、ことだよ。じゃあ、そろそろ時間だな。これ以上待たせても怪しまれそうだし、二人で転送しちゃうね。」


「「え?」」


 日本語なのかもよくわからない言葉をゴニョゴニョと言った瞬間、再び視界は暗転し、浮遊感とともに落ちていく感覚がする。




 眩しい……

 まだ慣れていない目を見開く。そこには、雄大な空が青を強調するように視界に映る。

 ふと、横に顔を向けると、まだ寝ている会長以外、誰一人としていなかった。


「やっぱりなぁ…」


 眠気を呼び起こし、太陽の温もりに包まれながら、ゆっくり眠った。

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