第4話 新生活の始まりも、また面倒なのです
オキトさんに隠していたことがバレてから、しなくてはならないあれやこれやを一つずつ消していく日々でした。
昼間お役所が開いていて日に入り前の時間帯に、希少種の登録やパートナー登録やらの申請。
自分が異世界からやってきたのもあってか、動物と人間の姿の両方に変身するからか。オキトさんと離され別々の部屋で事細かに事情聴取されたり、二回も家庭訪問を受けたり、かなり遠くの大きな病院で健康診断を受けさせられたりして、様々な申請が受理されるまで、約一週間ほどかかりました。
その間も、私はこの世界で生きるにおいて知るべき必要最低限のことを、オキトさんに叩き込まれていた次第。
正式に希少種としてオキトさんとのパートナーになったことを認可されると、人間の生活に必要なものをオキトさんと改めて買い揃えましたね。
幸福を招来するとされる希少種は、様々な特権を与えられるようで。希少種来店可かつ値引きなどのサービスがある大型ショッピングセンターで、お買い物しましたよ。
兎姿のときに睡眠を取ればいいので、布団や枕は不要と言い張ったのですが。オキトさんは頑なに譲らず、渋々選ばされ購入する運びとなりました。
外出中それなりに目立ちましたけど、無断で写真撮影されることはありませんでしたね。オキトさんから簡潔に説明を受けましたが、著作権侵害とか肖像権侵害は、地球よりも厳しいみたいです。
そうそう。服に関しては、私を保護してくれたイセミさんの奥さんであるナルエさんから、お下がりをたくさんいただきました。看護師時代数回しか着ておらず、もう着ないであろうお洋服がたくさんあったそうで。新品同様のお洋服ばかりでした。
ファッションセンスがなく流行にも疎い自分ですら、結構いいお値段のお洋服だったんじゃないかなと察しましたけど。とにもかくにも、ありがたいばかりです。
仕事が見つかるまで、オキトさんの変な過保護もあり、オキトさんの元々の出勤時間である真夜中の零時前に、私はイセミさんのお宅に預けられることになりました。
イセミさんの家は、ご夫婦とお子さん二人と猫三匹と犬二匹という大家族。お子さんは、長女のソウカちゃんが五歳、キョウヤ君は二歳。
公務員らしいイセミさんが夕方には帰宅し、それから子育てや家事は分担できるといえど、専業主婦のナルエさんの負担も大きいわけで。
私なんてできることは限られていますが、夜中ソウカちゃんのトイレに付き添ったり、キョウヤ君が夜泣きし始めたらどうにかこうにかあやしたりはしています。
猫と犬のみなさまは、余所者の私に人間姿のときは警戒し距離を取ってくれているのですが。
兎もどきの姿になった途端、異様に追いかけ回され、必死に逃げまくるしかありません。捕まったら最後、ペロペロされ放題ですので。それだけは本当に勘弁しれくれなのです。
迎えに来た夜勤明けのオキトさんに毎度シャワーしてもらうのも、気がひけますし。
また、気がかりは他にもございまして。
「シロは兎のときはうちの子、人間のときは私のお姉ちゃんでもうよくない? どうしてお父さんはオキトお兄ちゃんのところに連れて行っちゃったの?」
なぜか、ソウカちゃんは、私にとても優しくてですね。
早熟な五歳児による、
イセミさんはソウカちゃんに謝り、ナルエさんや私がソウカちゃんにやんわりと事情を諭すも、完全に納得はしてもらえず。
「オキトお兄ちゃん、シロのことちゃんとお世話できないなら、早めに相談してね」
オキトさんにもなかなかの圧をかけるようになり始めまして。
このままではよろしくないなと考え、本腰を入れて仕事を探し始めました。
私でもできそうなアルバイトの求人をいくつか見つけるも、オキトさんが口コミや噂を調べてダメだししまくり、まだ一つも応募できていません。
「お前くらい養えるし、そんな無理に仕事しなくていいっつってんのに」
オキトさんの現在の本音は、そうだとしてもです。
時間が流れている限り、変わらないものは何一つもありません。
万が一のことを考慮すれば、稼いで貯金せねばならないのです。
あとあとになって、今までの養育費的なの全額返済求められるかもしれませんし。個人的にも、オキトさんに今まで私にかかった費用少しずつ返していきたい気持ちもあります。
結局私が折れないでいると、オキトさんの方が根負けして、前勤めていたというアルバイト先を紹介してくれました。なんでも、そちらの元上司さんと世間話をする機会があり、信用できる人なので私について話していたら、一度面接に来て欲しいという流れになったそう。
「そこでダメだったら、家でちまちまポイ活な」
有無をいわさない態度を貫かれ、私は何がなんでも面接に受かろうと誓った次第。
面接はスーツでなく私服でということで、オキトさん同伴で臨みました。
面接官のケイカさんは、語彙力なくてあれですが、しゅっとした仕事できるであろう体型の美女でした。シミ・しわ一つない陶器肌が眩しいです。
通常通りの面接の質問を終え、なんとまさかで採用の運びとなります。
「それじゃあ、当ホテルにおける希少種登録認定が済み次第、勤務開始ということで」
希少種を採用する職場にも、いろいろと登録は必須なんだとか。国から何かと特権が与えられるそうで、特に福利厚生面が今まで以上に充実するらしいです。
「服装に関しては、上着は支給します。下は、汚れてもいい動きやすいスウェットパンツやストレッチパンツ的なものを履いてきてください。色は黒や紺や藍色に限定されています。靴は脱ぎやすいサンダルで。化粧はしなくても構いません。勤務中のアクセサリー着用は不可。髪は結べる長さの人は必ず結ぶようお願いしています。ただ、髪色やネイルは自由ですので」
忘れないように、きちんとメモを取りました。
勤務時間は零時から朝七時半まで。オキトさんの出勤時間と揃えてもらえました。いえ、多分それこそがオキトさん側の条件だったのかもしれませんけど。
途中、もちのろんで兎の姿に戻ってしまうのですが。その点を相談確認したところ。
「もうそれでも構わないの。そちらの姿で最低限の仕事をしてもらえればそれで。もうね、人手不足なのよ。今、深夜任せっきりの人に、泣く泣く辞職延期してもらっている状態だから」
そんな兎の手も借りたい背景もあり、許可が下りているようでした。
「慣れてきたら、新しい人が入るまで週五日の勤務を頼みたいと思っています。ひょっとすると今年は扶養限度額超えてしまうかもしれないけれど、三年連続で超過しなければ大丈夫なので」
私は一応オキトさんの扶養に入っているような状態らしく。扶養から外れないために、こちらの世界では、一年で稼いだとしても、百八十万以上二百十万円以内が望ましいらしいです。
地球では独身で、ナントカ万円の壁とか自分には無関係だと気にしたことなかったのですが。今後は少しずつ理解しなければいけませんね。
そんなこんなで、私はホテルの受付兼ルームメイクのアルバイトをすることに決定したのでした。
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