静寂の中の思索 — ユリゼルの独白




アレクは洞窟の隅で静かに横になり、浅い眠りについていた。

その寝息が一定のリズムを刻む中、ユリゼルは一人、灯りの残る結界の中で目を開けていた。


何も言わなかったが――本当は、心が落ち着かない。


あの“管理層”の存在を前にして、恐怖よりも先に抱いたのは、“既視感”だった。

初めて見るはずの機構、初めて聞くはずの声。なのに、どこか懐かしい――いや、“知っている”と感じた。


(……私の記憶は断片的。でも、もしかして……)


彼女はそっと胸元に手を当てた。

そこに確かにあるはずの“核”――精霊としての中心。だが、それもまた、この世界の“理”の一部であり、ある種のプログラムのような“役割”に縛られていることに気づいている。


(私は本当に、精霊なのか? この世界のために生まれた、自然の一部?)


彼女は今まで信じてきた。


この世界は現実で、裂け目は災厄で、自分はその番人――

でも、“管理者”と呼ばれる存在の姿を見た瞬間、その“信仰”に小さなひびが入った。


(もしかして、この世界は……“作られた”ものなのでは?)


言葉にするのも恐ろしい。

だが、それが“仮想”の領域――いや、“誰かの観測”によって維持された閉じた世界であるとすれば。


自分は、“最初から定義されたキャラクター”なのではないか?


精霊という存在も、封印という役割も、全ては“誰かが設計した”設定のひとつにすぎないとしたら――。


(……じゃあ、私の感情は? この胸の痛みや、アレクに出会って感じた喜びや希望は……全部、誰かのシナリオ?)


彼女の手がわずかに震えた。

それでも、自分が“誰かの役割”以上の存在であることを信じたかった。


アレクが見せてくれた“例外”。

“好都合”という力に導かれて、定められた運命にすら抗える彼の姿こそが、唯一の希望に思えた。


(もし彼がこの世界の“仕様”を乗り越えられるのなら……私も、この世界の“外側”へ届くかもしれない)


ふと、アレクの寝顔を見た。


その表情は穏やかで、どこか無防備だ。

だが――彼の中には、“誰にも操れない意志”が確かに存在していた。


「……ありがとう、アレク。あなたに出会えたことが、“設定”でないとしたら――それは、本当に奇跡ね。」


ユリゼルはそっと目を閉じた。


その意識の奥に、かつて失ったはずの記憶が、静かに波紋のように広がっていく。


それは、まだ誰も知らない“始まり”の記憶――

この世界が構築される前、“誰か”の手によって灯された最初の“光”。

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スキル「好都合」だけで難易度SSランクの世界を生き延びることは可能なのか─? @ikkyu33

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