希望の輪郭




静寂が戻ったのは、それからどれほどの時が経った後だっただろうか。


ダンジョンの深層に渦巻いていた異界の気配は、跡形もなく消えていた。アレクとユリゼルは、つい先ほどまで命を懸けていた戦場の中央に立ち尽くしていた。剣にはひびが入り、ユリゼルの衣はところどころ焦げていたが、二人ともまだ立っていた。


「……終わった、のか?」


アレクがぽつりと呟く。返事の代わりに、ユリゼルはそっと目を閉じ、空気の揺らぎを感じ取っていた。


「ええ。異界の流れは封じられたわ。……完全に、ね。」


彼女の表情には、安堵と、ほんの少しの寂しさが混ざっていた。


アレクは疲れたように腰を下ろし、背中で崩れた柱にもたれかかる。


「じゃあ……お前、これで自由になれたのか?」


ユリゼルは静かにうなずいた。


「ええ。“あなたの力”が、結界そのものの構造を変えてくれた。『私がここにいなくても、世界を維持できる仕組み』……まさか、本当にできるなんて思わなかった。」


「“好都合”ってのは、便利すぎて笑えるスキルだな。」


アレクはそう言って、空を見上げるように天井を見つめた。遥か上に、かすかに光の差し込む裂け目がある。まるで、長い闇の旅路に終わりがあることを告げているかのようだった。


ユリゼルは歩み寄り、アレクの隣に腰を下ろす。


「これから、私は――」


その言葉を、アレクが手を挙げて制した。


「……その話は、外に出てからにしよう。ここでお別れなんて、縁起でもねぇ。」


ユリゼルは驚いたように目を瞬かせ、すぐに微笑んだ。


「……ふふ、そうね。じゃあ、まずは外の空気を吸いに行きましょうか。あなたと一緒に。」


二人は、廃墟と化した深層を後にした。新たな未来の輪郭を胸に抱きながら。


――そしてその旅路の果てに、世界の命運を変える“もう一つの選択”が待ち受けていることを、まだ誰も知らなかった。

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