ユリゼルの試練





アレクはユリゼルの後を追い、暗闇の中を進んだ。足音が虚空に消えていく中、ただユリゼルの衣擦れの音だけがかすかに響いていた。周りは静まり返り、まるで時間が止まっているかのようだ。


「ここは一体……?」


アレクが声を潜めて問いかけると、ユリゼルは軽く振り返り、にっこりと笑いながら言った。


「ここは試練の道だよ~!アレクの覚悟を試すための場所、かな?」


「覚悟を試すって……どういう意味だ?」


アレクの声には、少し苛立ちが滲んでいた。説明もなしに歩かされ、状況がさっぱり掴めない。その時、ユリゼルはピタッと立ち止まり、目の前に現れたものを指差した。


「ほら、アレク、あそこに見えるのは試練の門よ!ポーンと開けてみて。」


アレクは思わず目を見張る。大きな黒い石の門が、目の前に立ちはだかっていた。表面には古代の文字がびっしりと刻まれ、その光景には何かしらの不安を感じる。


「ここから先は、アレクだけが進むことになるんだよ~。」


「え、一人で?」


アレクは驚き、戸惑いながら答えた。しかし、ユリゼルはニコニコしながら、肩をすくめて言った。


「私、だって手伝うわけじゃないもん!アレクの力を試さなきゃいけないから、ね?でも、もしも無理だったら……まぁ、その時はそれまでよ~。」


「おい!」


アレクは思わず声を上げたが、ユリゼルは肩をすくめながら、いたずらっぽく目を細めて笑った。


「大丈夫だよ~。君ならできるよ!」


それから、ユリゼルはふわっと立ち上がり、アレクの前に立つと、無言で大きな門を指差した。アレクは少し戸惑いながらも、その先に進む決心を固める。


「覚悟を決めろ、アレク!その先には君の未来が待ってるよ~!」


アレクは少しだけ迷いながらも、ユリゼルの言葉を胸に、ゆっくりと門に足を踏み入れた。その瞬間――


ゴゴゴゴゴ……!


門が重々しく開き、冷たい風が吹き抜けた。アレクはその風に身を任せ、闇の中へと踏み込む。


足元が崩れるような感覚と共に、アレクは暗闇の中に吸い込まれるように落ちていった。


---


気づくと、アレクは不気味な空間に立っていた。見渡す限り、灰色の大地と不気味な赤い光が漂う空。まるで地獄のような場所だった。


「……ここ、どこだ?」


アレクは呟くが、答える者は当然いない。その時、目の前に現れたのは、アレク自身の姿にそっくりな人物だった。


「な、なんだこれ……俺?」


目の前にいるのは、アレクとまったく同じ姿をした人物だ。しかし、その目には冷酷な光が宿り、どこか嘲笑うような笑みを浮かべている。


「お前が俺の試練か?」


アレクは強い意志を込めて問いかける。その声に恐怖が滲みながらも、どこか戦おうという気持ちが感じられた。


「そうだ。そして、君が逃げてきたすべてを、俺が映し出してやる。」


その言葉と共に、もう一人のアレクが指を一振りすると、周囲に無数の幻影が現れる。それはアレクが過去に経験した恐怖と失敗の数々――


「やめろ……やめてくれ!」


アレクは叫びながら、目を背けようとする。しかし、次々と現れる過去の記憶を無視することはできなかった。


「逃げ続ける限り、何も変わらないぞ。」


冷酷な笑みを浮かべるもう一人のアレクが、そう告げた。


「……そんなことは分かってる!」


アレクは拳を握り、胸に込めた思いを叫ぶように言った。


「俺は変わりたい……変わらなきゃいけないんだ!」


その言葉と共に、アレクの中で何かが弾けるような感覚が走った。その瞬間、スキル「好都合」がかすかに輝きを放ち、アレクの体を包み込んだ。

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