スキル「好都合」だけで難易度SSランクの世界を生き延びることは可能なのか─?

@ikkyu33

いきなりダンジョン奥地に、記憶を消されて飛ばされました




「……《好都合》、発動」


その一言とともに、アレクの視界に淡い金色の文字が浮かぶ。空間の気配がわずかに変わり、何かが“都合よく”動き始めた感触があった。


だが。


「……ん?」


次の瞬間、視界が闇に閉ざされた。目の前に広がるのは、何も見えない真っ黒な空間。足元も不安定で、踏みしめるたびに岩のような音がした。


「ここ、どこ……?」


周囲には空気の流れすら感じられない。それでも、妙に研ぎ澄まされた感覚が、本能的に“危険だ”と警鐘を鳴らしていた。


――ここは、かつて幾人もの冒険者が消息を絶った迷宮、その最奥に近い階層。


彼が今いるのは、本来であればレベル100近い熟練者ですら慎重に踏み込むべき領域だ。


(どうして、こんな場所に……《好都合》が働いたんじゃなかったのか?)


疑念がよぎるが、それより先に気配が迫る。獣のような呼吸音。地面を這う、重く湿った音。


「……まずいな」


自然と身構える。だが武器らしいものはない。装備も最低限。あるのはただひとつ――


【スキル:《好都合》Lv.3】

効果:使用者にとって有利な状況を限定的に引き寄せる。

次のレベルアップまで:撃破数 1/5


このスキルは、完全な奇跡ではない。状況によっては、ほんの些細な偶然を引き寄せる程度にとどまる。だが――。


「……なら、試してみるしかないか」


物陰に手を伸ばすと、ちょうどよく掌に収まる石があった。何気なく投げる。それだけの動作。


――しかし、その石は見事に魔物の額へと命中し、直後に岩壁の突起が崩れ、魔物の身体を押し潰した。


【撃破成功】

【スキル《好都合》 経験値 +1】

【レベルアップまで残り:4体】


「……なるほど。そういうことか」


アレクは、ようやくスキルの真価を少しだけ理解した気がした。

《好都合》は奇跡を起こす力ではない。だが、偶然を“必然に変える”だけの力は持っている。使い方さえ間違えなければ。


そして何より――


「倒せば、スキルも育つ。そういう仕様、ってことか」


この世界では、強さは一朝一夕では得られない。だが《好都合》には、戦いの中で成長していく仕組みがある。積み重ねれば、確かに可能性は広がる。


再び、魔物の気配が迫ってくる。今度は2体。


アレクは息を吐き、小さく呟いた。


「……行くか」


彼にあるのはひとつのスキルと、まだ見ぬ可能性。

そして、今まさに訪れようとしている“運命の分かれ道”。


落ちこぼれと呼ばれた少年の挑戦が、静かに始まった。

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