笑える異世界転移の皮を被った、あまりに切なく、美しい「善意」の証明。
- ★★★ Excellent!!!
ただの異世界コメディだと思って読み始めると、良い意味で裏切られます。
主人公のシスイは、交通事故死によって世界に矛盾(バグ)を生じさせたため、異世界に「不法投棄」された元サラリーマン。 とぼけたおじさん口調、女子高生の魂を持つフェンリルとの漫才のような掛け合い、そして「マジックハンド」という地味な能力。序盤はテンポの良い会話劇に何度も笑わされました。
しかし、物語が進むにつれて見えてくるのは、シスイが現代に置いてきた「後悔」と、彼自身の「歪な人間性」です。 なぜ彼は自分を「産業廃棄物」と呼ぶのか。 現代編で描かれる、残された人々への「記憶の消去」という残酷な救済。 そして明かされる「スワンプマン(泥人間)」という哀しい自己定義。
「善意とは何か?」「偽善とは何か?」 自らを偽物だと断じる男が、本物の善意を探して足掻く姿は、痛々しいほどに人間臭く、そしてどこか美しい。
笑って、ハラハラして、そして最後に胸を締め付けられる。 一粒で二度も三度も美味しい、傑作ファンタジーです。