第22話 屋敷
雪の地下で、流が用意された茶を飲みながら発言する。
「ところで、ここの上には大きな建物があるけど、あれは使っているのかい?」
「いえ、ですがこのまま腐らせるのも勿体ないと思いまして、掃除だけは時々しておりますけど」
「ふーん・・・」
流は少しの間黙り込んで、雪に笑みを向けた。
「住もうかな?」
「す、住む!?」
雪は驚きのあまり立ち上がり、亜芽が目を輝かせる。
「みんなで、ってことか!」
「うん。いいよね?章くん」
章は特に驚いた様子はなく、こくりと頷いた。
「好きにしろ」
亜芽が拳を高く掲げる。
「行こうぜ!私たちの屋敷に!」
全員が地上へと続く階段を上っていく。その内、ミツトと雪は首を傾げて、不思議そうにしている。
流が章の肩を叩く。
「章くん、ポケットに何か入ってるの?さっきからずっと触ってるよね」
「ああ。きらごが作ってくれた、お守りだ」
章は、ポケットからウサギの形をした、小さな巾着を取り出した。
「俺に対する感謝を込めて作ったらしい」
「中に何か入ってるのかい?」
「入ってる。恥ずかしいから見ちゃだめって言われたけどな」
流が、嘲るように笑う。
「良かったじゃないか。きらごちゃんと両想いだね?」
「なっ!?・・・そ、そういうのじゃない」
一瞬表情が崩れかけたが、すぐにもとに戻る。
「でも、章くんはきらごちゃんのことが好きなんでしょ?」
「まあ、俺は・・・そうだけど。でも、きらごは家族だから俺のことが好きなんだ。もし俺がきらごの兄ちゃんじゃなかったら、きっと俺に笑いかけることもしないだろうな」
寂しげに俯いた章を、不思議そうに見つめて、流は地上へと繋がる扉を開けた。
そこにはきょろきょろと辺りを見回す、きらごの姿があった。きらごが章に気付くと、小走りで近づき、章の目の前で止まった。
「あきにい!」
章は少ししゃがんで、きらごを撫でた。
「えへへ」
きらごは嬉しそうに笑いながらそれを受け止める。
(うわぁ、なんで人前でこんなにいちゃつけるんだろう)
ミツトは思うだけで、なにも言えなかった。
だが、流はゆっくりと歩き出し、すれ違いざまに、きらごにしか聞こえないような小声で言った。
「あざといね、ほんと気持ち悪い」
そして、流はきらごの一歩手前に出て、その場にいる全員に顔を向けた。
「早く行こう?可愛いメイドさんが待ちくたびれちゃうよ」
それを聞いて、またしてもミツトと雪だけが困惑していた。
「メイドって・・・。どういうこと?」
「・・・わかりません」
「お前、いつ連絡したんだ?」
章が、驚いた表情で流に尋ねる。
「アンちゃん!懐かしー」
きらごが、章にくっつきながらにこっと笑った。
「いま、そこの建物・・・。屋敷にいるんだな!?」
亜芽が、目を輝かせて屋敷へと駆けていく。
屋敷の扉を開けると、そこには、黒と白を基調とした、エプロンのような服、いわゆるメイド服を身につけた少女が佇んでいた。
少女は、亜芽たちに向かって一礼すると、笑顔で迎え入れた。
「おかえりなさいませ!亜芽様、流様、きらご様、雪様。お元気そうで何よりです!」
「ただいま、久しぶりだな!」
「ただいま。アン」
「ただいまー!」
「えっ、わ、私もですか?ただいま・・・?」
亜芽、流、きらご、雪の順番でそれぞれアンと呼ばれた少女に返事をする。
「おい、アン。一人忘れてるぞ」
章が不満の声を洩らすと、アンはめんどくさそうに返す。
「あー、お久しぶりですね。章さん。ところで、ここにいる方はどなたですか?すっごいびっくりしたんですけど」
「び、びっくり?」
ミツトはアンの言葉に首を傾げるが、章は納得したように頷いた。
「分かる。俺も初めて会ったときびっくりした。こいつはミツト。人間の高校生」
「へー、そうなんですか。まあ、そんなことはどうでもよくて。シュンさん?という方には二階で掃除させていますので、彼に用があるときは二階へどうぞ。今日よりあなた方はここの住人です。ご自由にお使いください!」
アンは早口でそれだけ言って亜芽たちと話をしに行く。
こうして、ここが亜芽たちにとって拠点となる屋敷になった。
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