5. 出会い
昼休みが終わった後、私は由梨花と一緒に教室に向かった。
由梨花とは中学の時のあの事件以来、ほかの子達より仲良くなった。
私の外見と肩書だけを見て近づいてくるほかの人たちと違って、彼女はただ純粋に私の中身を見てくれていた。
一度なぜ私と一緒にいてくれるのか聞いたところ、私が英語の授業でほめてくれたことがよほどうれしかったようだ。
まさに純粋で単純すぎる理由だが、それくらいの考えを持つ子のほうが、私には都合がよかった。
私は重い瞼を擦りながら午後の授業を受け始め、ついに最後の授業になる。
最後の授業は、数学だ。
ただでさえ眠くなる時間なのに、そのタイミングで数学という一番頭を使わなくてはいけない科目を受けなければならない。
きっと生徒たちが眠らないようにと先生がわざとこの時間に入れたのだろう。
新手の嫌がらせだろうか。
なんてことを考えながら受けていると、私の名前が呼ばれる。
「じゃあ北条、この問題解いてみろ。」
私は黒板の前まで行き、チョークを受け取る。
「正解だ。さすがだな!」
私は先生に軽くお辞儀をし、席に戻っていく。
「はいじゃあ次この問題。そこの寝ている千波(せんば)!答えが間違ってたら今日は一人で居残りだ。」
「え!?なんで俺だけ・・・」
周りの子たちがくすくすと笑う。
彼は後ろの席の千波亮(りょう)さん。
素直で元気な性格をしていて、誰にでも気遣いができる。
顔もまぁ整っている方で、茶髪にオレンジ色の目、そしてニカッと笑う無邪気な笑顔が女子の心を射止めるのだとか。
立場的には少し私と似ているのかもしれない。
彼は先ほどまで目は開いていたが頭を伏せてぼーっとしていたので、先生に寝ていると思われたようだ。
たとえ寝ていなかったとしても、話を聞いていなかったのでわからないのだろう、顔が引きつっていた。
「xイコール十二」
私は彼が聞こえるか聞こえないかくらいの声量で、こそっと呟いた。
亮は余程居残りが嫌なのだろう、ばっと席を立ち、すぐに私が言ったことと全く同じことを声に出して言った。
「はぁ、正解だ。まぁわかっているならいい・・・だが次は寝るなよ!」
「はーい!」
彼は嬉しそうに席に着き、授業が再開された。
「さっきはありがと本条さん!命拾いしたわー!すごいな!ひょっとして塾かなんか行ってる?」
授業が終わってすぐ、亮は私に話しかけてきた。
私は後ろを振り向くと、目を見開いた。
確かに私は海外で両親と暮らしていた頃、塾に通っていた。
両親はいい経験になるからとほかにもピアノや演劇、ダンスなどいろいろな習い事を私にやらせた。
だがなぜ私がただの授業の答えを教えただけで、塾に通っていたと分かったのだろう。
そう考えていると、まるで私の考えを読んだかのように彼は言った。
「あぁ、本条さん自分が指される前まで窓眺めてたでしょ?だからきっと本条さんも先生の説明聞いてなかっただろうなーと思って。」
彼の言った通り、私の席は窓際の後ろから二番目だったから、私は先ほどまで左を向いて窓を眺めていた。
「あぁ・・・今はもうやめちゃいましたけど、海外に住んでいた時は行っていましたよ。その時に高校までのは一通り習いました。」
「そうなんだ!だから説明なくてもわかったんだな!天才じゃん!」
亮はニカッと明るい太陽のような笑顔を私に向けて言った。
「ありがとうございます。でもその賢さを勉強にも使えば、居残りなんてしなくて済むと思いますよ。」
私はニコッと微笑んだ後、黒板の右上を指さした。
「あっ・・・」
そこにはさっき亮が答えた問題と数字のみが違う数式と、その解き方が書かれていた。
亮が口をぽかんと開き悔しがっていたので、あまりのオーバーリアクションに私はくすっと笑ってしまった。
急に静かになったなと思い彼のほうを見ると、今度は亮が目を見開いていた。
「どうかしましたか?」と私が聞く前に、二人の男子が彼に話しかけた。
「亮、さっきは危なかったな!」
「よく寝てたのにあの問題解けたな!」
二人が話し始めたので、私は前を向き話を聞きながら帰る支度を始める。
「おう!実は天才な助っ人が助けてくれたんだ!なっ!北条さん!」
私は視線を感じ、笑顔で後ろを向く。
「そんなことないですよ。千波さんも賢いじゃないですか。」
私がそう言うと、三人が固まる。
(あれ、私今、何か間違えた・・・?)
そう考えていたのも束の間、急に二人は体を震わせ始めた。
「ふはっ!北条さん、そんな気使わなくて大丈夫だよ!」
「中学の時の亮の成績はいつもオール一だったからな(笑)」
「おい啓介(けいすけ)!春馬(はるま)!少しは俺をかばう気はねーのかよ!北条さんに笑われちゃうじゃん!」
せっかく賢いと言われたのに、と亮がわざとらしく落ち込み、二人が笑い出す。
私も雰囲気に合わせて笑った。
すると春馬が言った。
「にしても北条さんって本当に噂通り美人で優しいんだね!正直、俺そこまで完璧なのは
“うそ”だと思ってた。」
一瞬だけ、自分の体の動きが不自然に止まったのがわかった。
でもそれを悟られないように、いつも通りの完璧な笑顔を作る。
「そんなことないですよ!でもうれしいです。ありがとうございます♪」
私がそう言うとまた三人の動きが急に止まり、啓介と春馬は顔をだんだんと赤くさせていた。
「「かわいい・・・!」」
二人がいきなりそう言いだしたので、私は両手で顔を覆い、照れた。ふりをした。
それが彼らの求めていた行動で、そうすれば喜ぶと知っているから。
(あぁ、また盗んじゃった)
そんなことをしていると、さっきから珍しく静かになっていた亮がしゃべりだした。
「それ、ほんと?」
「・・・え?」
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