第3話
会議室に微妙な空気が蔓延していた。
「では、ここで艦の補修は出来ないと?」
「いえ、そう言う訳ではありません。只今防衛省と連絡を取っており、係官がこちらへ向かっています。」
「補給は受けられるのでしょうか?」
「取りあえず必要な物は準備しています。食料品なんかは、事後報告でも通ると思いますので…」
「兵員の上陸は出来ないのでしょうか?」
「こちら側の許可が降りれば問題ないと思いますが..ただ、ちょっと時代ギャップが大きすぎて、乗務員の方々が混乱するかもしれません。」
「ところで、防衛省とは?海軍省とか陸軍省ではないのですか?それに、時代ギャップとは、どう言う事でしょう?」
「艦長は従業員の格好を見て、違和感を感じられませんでしたか?」
「確かに全員鉄かぶとを被っていましたし、英語が飛び交っていたような気がします。自動車やトラックも見たことが無い形ばかりで、混乱しておりますが...」
「信じられないかも知れませんが、今は202×年です。私達もドックに戦艦が入渠して混乱しています。映画の撮影用に建造された船だと思って居ましたから。」
「昭和19年ではないのですか?」
「はい。昭和は2世代前の年号です。昭和の次が平成、現代が令和となっています。」
「我々はレイテ沖で戦闘を行って、漸く呉に帰って来て、修理を行う為に入渠したのですが‥
元の時代へは帰れないのですか?」
「それを含めて、只今調査中です。今のところ解っているのは、このドックの沖500m程度の沖に、見えない壁が有るのです。我々の船舶では、その壁にぶつかって先に行けません。そこで、大和の艦載艇をお借りしたいのです。乗務員と我々の調査員を搭乗させて、その壁に行ってみたいのです。すでに防衛省の調査員が新幹線でこちらに向かっていますし、広島大学の宇宙物理学の教授が、学生を連れて調査に来ています。教授が言うには、当時の船舶ならくぐれるかも知れないと仮説を立てているのです。」
「内火艇なら、直ぐにでも出せますが、艦を出渠しないと降ろせませんが?」
「甲板に出していただければ、クレーンで海面に降ろします。ご協力願えますでしょうか?」
「...わかりました。操縦員を含めて出しましょう。」
「必要な補給品も、リストを頂ければ用意させます。よほど特殊でない限り、呉市内か広島市内で調達できると思います。上陸も、このドックの敷地内なら問題ないと思いますが、いかがしますか?」
「もう少し様子を見てから、上陸させます。その壁の正体が解らないと何とも言えませんが。」
「我々は敵では無いので、小銃を持たせた兵員は必要ありません。修理箇所を調べる調査員を乗艦させても大丈夫ですか?」
「それは許可を出しておきます。」
「写真や動画は問題ないですか?」
「本来、軍機なので許可出来ないのですが‥」
「既に外観の写真はドック外から撮影しています。御覧になりますか?」
「え?写真を撮影しているようには見えませんでしたが?何か板のような物を持っているのは見かけましたが?」
「あぁ、スマホですね。これです。従業員から撮影した写真や動画を提出させています。外に漏れると、いろいろ問題が有る個人や国家が有りますので‥このモニタで見てみますか?」
「すまほとは?」
「信じられないかも知れませんが、基本は電話です。いろいろ機能が付いているので、電話に見えないかも知れませんが。」
モニタの電源が入り、写真が映された。
「!これは映画‥ですか?その割には、周りが明るいし」
「いいえ。テレビです。テレビジョンと言った方がわかりますか?」
「いや、テレビジョンは話に聞いていますが、こんなに薄くて大きな物だとは、思いもしませんでした。それにしても鮮明に映っていますなあ。」
「現代に開発された薄型テレビですよ。モニタにもなります。動画はこれですね。ドック内で固定作業をしている所から、動画を撮っていたようです。」
「写真ならフィルムとか乾板とか必要なのでは?撮影用のカメラも見ては居ませんが?」
「このスマホに電子データ‥いや、電気信号として記憶させているのですよ。だから、フィルムもレコードも必要ありません。」
「何という時代だ‥分かりました。いや、さっぱり解りませんが、作業は進めましょう。内火艇には副長を搭乗させます。それで宜しいか?」
「ありがとうございます。早速準備にかかります。」
「では、小官は艦に戻ります。主計課に話をしておきますので、補給の方をよろしくお願いします。」
「艦長、お土産にこれをお持ちください。士官の方々にも宜しくお願いしますと。」
渡されたのは、スコッチウィスキー半ダースだった。
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