第33話交渉ではありません。告白です。

大きくて重厚感ある扉の前。


部屋を移動したイヴ君の現在のお部屋。


ほ、本当にクビなのかな?


ーコンコン…


「イヴ君、入るね。」


返事は…ない。これは相当機嫌悪いよぉぉ…。


私なにしたんだろ?そんな怒るような事したかな?


キィィ…「なぜ入らない」


「わっ、びっくりした…お返事がなくて足が竦んでました…」


「?意味分からん。ったく、主に扉を開けさせるな。さっさと入れ」


「はい…。」


扉を開けたイヴ君がちょっと不機嫌そうに私を見てる。


言ってる事はごもっともだ…でもだったらお返事欲しかったな…。


そんなイヴ君はさっさと部屋の中に入って行ってしまってなんだかソワソワしてるし。どうしたのかな?


…ん?ソワソワ?あのイヴ君が?


「あの、イヴ君。体調悪い?もしかしてご用って看病だった?」


「んなわけあるか。お前を呼んだのはもっと別の用件だ。」


「そ、そうなの?なんだかソワソワしてるから…。体調悪いのかなって。」


「…チッ。」


あ、舌打ち。これ以上は喋らない方がいいかも。


「おい杏。こっちに来い。」


「殺さない?」


「なんでだよ。さっさと来ねぇと撃ち殺すぞ」


「ほらやっぱりっ!!もぉ…。」


少し開けてた間を進んでイヴ君の目の前に立つ。


体調悪い…わけではないみたい。


返しも普通だし顔色も少し頬が赤いけど普通。


ただ大きく深呼吸していて唇を噛み締めているから何かよほど大きな事情を抱えているんだ。


明日の就任式の事とかかな?


「杏、お前は給仕を今日を持ってクビにする。」


「…!!な、なんで?私なにかしちゃった?」


「…。」


「イヴ君…。え!?イヴ君!?」


レオさんが言ってた事、本当だったってすごくショックで泣きそうなのを我慢するしかなかった。


でも、突然イヴ君が目の前で座り込んでしまってそれどころじゃないよ!!


なんで私、イヴ君が体調悪いって気づかなかったんだろう!?きっとこういう所が積み重なってクビになったんだ…っ。


「お、お医者さん呼んで来るっ!!」


「待て!!」


「ビクッー。待てって…だって座り込んでっ」


「…これをお前に渡すだけだ。」


「え?」


慌てて部屋を出ようとする私に大声でストップをかけたイヴ君。その声にビックリして思わず足が止まってしまった。


そして心配しっぱなしで落ち着かないの私の左手をすくって、イヴ君が何かを薬指にはめてきたの。


渡すだけって…「もしかして、これは…」


「指輪だ。…杏、これからは俺のパートナーとして隣にいろ。」


「イヴ…君?」


「この七年、お前を見てきた。意外と根性あるし呑み込みも早ぇ。おかげで親父の説得もスンナリだったぜ。」


「…」


「俺の女として。このファミリーを一緒に支えて欲しい。どうだ。」


「あ…っえ、えっと…」


これってつまり、プロポーズ?


なんの前触れもなかったよね?こんな突然…イヴ君、もしかして緊張してた?


やだ、涙がっ


「なんだ?頼もしくなったと思ったからプロポーズしてるってのに、会った頃みてぇに泣きっぱなしじゃ解答になってねぇぜ。」


「だって…ヒック…こんな、いきなりっ。嬉しくてっ。」


「ふん。じゃぁ俺の考えに相違はねぇな。」


「はぃっ。ぜひ一緒に支えさせて下さい…。」


「言うじゃねぇか。頼りにしてる、杏。」


すごく安心した顔でギュッと抱きしめてくれるイヴ君からは深いため息が聞こえた。


緊張の糸が切れたような、そんなため息。


また大変な数年間が始まるんだろうなぁ。


でも。それでも…私は胸を張って幸せだって言えるよ。


いつかおばあちゃんになってこの世を去る時も笑顔でいられるように。精一杯頑張ろう。


とても濃い人生になりそうだ…。



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鏡の向こうとあなた。 ペンギン @Yun77

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