『こい』が実って花が咲く

 たった一人の園芸部の私は〈雲〉が大嫌いである。

 薄い〈雲〉はすぐに無くなるけれど、濃い〈雲〉は無くならない。そして花は〈雲〉と長い間一緒だと、それの特性によりダメになってしまうのだ。

 先日。顧問からメッセージで、濃い〈雲〉が裏庭にできたので放課後裏庭に行くように、と連絡が来た。

 〈雲〉駆除を私がする?いいや、違う。ダメになってしまった、私が花壇の花の植え替えをするために集まるのだ。

 裏庭に着いた私は早速、花の中に無事の花がないか確認する。


「あーあーあれもこれもダメだ……やっぱり全滅か……〈飴〉を防ぐネットみたいな、〈雲〉を防げる園芸道具、早く開発してほしい……」


「キャー!それほんとぉ?!」


 落ち込んでいたら、甲高い声が耳を通り抜けた。


「シーッ!声でかいよ!」

「ごめんごめん」


 どうやら目の前の教室かららしい。声が大きいと言った方も謝った方も、教室の窓が開いているとはいえ、裏庭にいる私にまで聞こえる声で話している。


「いやでもほんとおめでとう〜!絶対この『こい』を実らせたいって言ってたもんねぇ」

「ここまでほんと苦労したよぉ。三回目で無理だった時はさすがに心折れかけたけど、四回目でやっっと!『こい』実ったよ〜」


 声からして同じクラスの女子だ。

 そういえばこの前、『こい』に関して話がある、と呼び出されたので詳しい男子を紹介していた。

 私も関わった身として気になる話だ。


「その話、私も聞いてもいいですか?」


 開いてる窓から教室の中へ身を乗り出して声をかけた。


「「うわぁっ?!」」


 さすがに急な声かけだったようで、驚かせてしまった。

 慌てて謝りつつ、もう一度聞いてみる。


「もちろんだよ〜。おかげで『こい』を実らせられたし!」


 そう言って見せてくれた写真には、水槽の中の細い茎の上で実った、大きな『こい』が映されている。


「おぉ、立派な『鯉』ですねぇ」

「でしょでしょ!」


 感心して言えば、実らせた子……ではない子がドヤ顔で応えた。二人は親友らしいので、親友の成したことが自分の事のように嬉しいのだろう。


「『鯉花こいばな』を育てて『鯉』まで実らせるのは本当にすごいです。ちょっとでも何か違ったら枯れるし実らない。努力の賜物ですね!」


 二人は顔を見合わせてから笑った。直後、実らせた子が何かに気づいたのか、慌てて帰り支度をはじめる。

 もう一人の子も気づいたのか、二人で慌てて帰り支度をはじめた。


「話してる途中でごめんね、もう帰らないといけないんだ。私の親友を褒めてくれてありがとね」

「ほんとに私を褒めてくれてありがとう!また収穫したら見せるね」


 バタバタと足音が遠ざかる。『鯉』は実った後も収穫するまで気が抜けない。おそらくそれを思い出して慌てて帰ったのだろう。


「さて、植え替えしないと。それで終わったら、〈雲〉も防げる園芸道具を考えてみようかな」


 失敗するかもしれない。それでも『鯉』を実らせたあの子のように、完成するまで何度でも。

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不思議な短編 ひらはる @zzharu7

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