〈飴〉のち『くも』

 未だ口内に残る〈星〉柿の味のせいか、夕飯のカレーが不思議な味になっている。

 私がそのことで眉をひそめている間に、珍しく妹が父とのリモコン争奪戦に参加した上に勝利したらしく、リモコンを手にしている。私は完全に出遅れたようだ。

 母からしても妹がリモコン争奪戦に参加することが珍しいのか、理由を妹に聞いている。


「今日は何か見たいものでもあったの?」

「明日『くも』駆除の資格の講習に行くんだけど、今日〈飴〉が降ったから演習があるかもしれないし、『くも』を特集した番組で予習しとこうと思って。」


 妹はそう言って、ちょうど始まった番組に耳を傾ける。


[〈飴〉が降った後に出る、何かと嫌煙されがちな『くも』。今夜はそんな『くも』に迫ります。]


 そう始まったあと、司会や芸人の紹介、そしてゲストである『くも』の専門家が紹介され、その流れで『くも』のできかたの説明がはじまった。


[皆様がご存じの通り『くも』は〈飴〉が降った後にできる、甘い『雲』です。甘いことはご存じではないでしょうがね。]


「え、甘いんだ…。」


 思わずつぶやいた。学校では『雲』が甘いことまで習わないのだ。

 続いて専門家は笑顔で、甘い理由を説明していく。


[『雲』が甘い理由は〈飴〉が一定時間経って空気中に溶けた後、味をそのままに糸状に固まり『雲』になるからなんですよ。]

[へぇ!〈飴〉はおいしいですからね、それはぜひ食べてみたいなぁ。]


 芸人はへらへらとそう言い、その言葉を聞いた専門家は険しい表情になる。


[甘いと聞いたからって食べてはいけません。空気中の菌も含んで固まりますし、なによりベタベタしていて、一度ついたらなかなか取れません。窒息事故や行方不明者も出ていますから、近づかないで、資格を持つ方に駆除してもらってください。絶対です。いいですね?]


 それで学校では教えないのかと納得したところで、芸人を含めた数名のスタッフの笑い声が聞こえた。どうやら真剣に取り合ってないらしい。確かに『雲』はふわふわしていて有害には見えないが…。

 そのあとの番組内では特に注意喚起はなく、あるとすれば画面端にテロップで小さく書かれているだけだった。


 翌日の朝。

 天気予報を見る為にテレビをつけるとちょうど、行方不明者が発見された、というニュースが流れた。


「え、そうだったんだ…。」


 行方不明者というのは『雲』の特集をした番組のスタッフ四名と芸人だったらしい。ニュースでは続けて、発見時、四人全員の全身が異様にベタベタとしていたと報道した。

 ちょうど出かけるところだった妹に伝えると、呆れた顔をしながら靴を履く。

 

「ぜったい講習で話題に上がるなぁ。姉さん、今日は帰るの遅くなるってお母さんに伝えといて。」


 妹はそう言って、『雲』駆除の資格の講習所へと出かけて行った。

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