第18話 秘策とメインストーリーとジャレッドの抱擁と

 

「――雷電よ!」


 ジャレッドが魔法を放つ。


「ぐげっぐるげっげげげ」


 雷が魔物の身体を焦がす。

 しかし、魔物は止まらない。

 当然だ。入学してから二週間程度では、レベルが足りない。

 コンティニューアイテムも、現実にはない。


「ゆゆゆゆ、ゆるさん」


 魔物の触手がジャレッドに伸びようとした。


火炎矢ファイアアロー!」


 すかさず、私が魔法で援護する。


「――おおおお、おまええええ」


 やはり魔物、火には弱い!

 しかしこちらも決定打に欠ける。

 なんとか、ジャレッドの雷電か私の炎を通せればいいんだけれど――。


「……ん? 通す……?」


 なにか、打開策が閃きそうな気がした。


「避けろ!」


 ジャレッドの声がして、はっとする。

 足に魔力を集中して、その場から飛びのく。

 どごん、と大きな音がする。

 背後にあった岩が、魔物の触手で割れていた。


 さあっ、と顔が青くなる。

 あんな攻撃、今の私たちが食らったらひとたまりもない。

 しかし、この状況で助けは望めない。

 どうすればいい?

 頭をフル回転させ、私は腰のレイピアを見た。

 

「攻撃を、通す――そうですわ!」


 昔観た教育番組を思い出した。

 この策なら、もしかしたら勝てるかもしれない。


「ジャレッド様」


 私は、ジャレッドに耳打ちした。


「……それは、本当か?」


「やってみる価値は、あるはずですわ」


 私は親指を立てて笑う。

 ジャレッドがぷっ、と吹き出した。


「面白い……ああ。やはりあなたは面白いな。その賭け、乗ったぞ」


「ええ。仕留めてやりましょう!」


 私とジャレッドは、にやりと笑いあった。




  ★




「――こっちですわよ、魔物!」


 私は、手ぶらで魔物の前に出る。

 魔物がこちらに注意を向けた。

 怪我をした生徒には、助けを呼びにこの場から離脱してもらっている。

 彼が狙われないようにしないと……!

 私は石などを投げ、さらに魔物の注意を惹きつける。


「しるしる、しるうううう」


「来なさい!」


 魔物に背を向け、走り出す。

 ――欠かさず走り込みをしておいてよかった!


「うりりりりり、うりりいいいいいいいいいいいいいいい」


 魔物が触手を伸ばして襲ってくる。

 私はそれをすべて、辛うじて避けながらある地点まで魔物を誘導する。

 人の身長ほどの高さの崖。

 その下で、私は魔法を唱えた。

 ――一か八かだ。やるだけやってやる!


空間転芋テレポテト!」


 芋が魔物の頭にある目に激突する。


「おごっ――!」


「まだまだ! 空間転芋テレポテト!」


 私は固有魔法を乱発する。

 芋が次々と魔物の目に突き刺さる。


 ――目くらましは済んだ。


「今です! ジャレッド様!」


 私は叫んだ。


 崖の上に回りこんでいたジャレッドが、私のレイピアを持って飛び降りる。

 レイピアは、深々と魔物の目に突き刺さった。


「いぎぎぎぎぎぎああああああ」


 悲鳴をあげる魔物から、ジャレッドが距離をとる。

 当たり前だが、レイピアは金属だ。

 金属は、雷をよく通す。


「――雷電よ!」


 轟音。

 ジャレッドの放った魔法が、今度こそ魔物を貫いた。




  ★



「やりましたわね、ジャレッド様……!」


 私は息を切らしながら、ジャレッドに駆け寄る。

 怪我をしていた男子生徒も、きっと無事に離脱したことだろう。

 遠からず助けがくる。


 ジャレッドは半ば放心していた。


「勝てた、のか……」


「ジャレッド様、こちらを」


 私は魔法を発動させ、芋を焼いて差し出す。


「……芋?」


「呼び出した芋は食べなければなりませんの。魔力も消耗しているでしょうし、どうぞ」


「あ、ああ……いただこう」


 ジャレッドと私は芋を齧る。

 優しい甘みが口の中に広がり、二人で笑いあった。

 失った魔力も補ってくれるのが嬉しい。

 力がみなぎってくるようだ。

 芋を食べ終えて、ジャレッドは私に向きなおった。


「――ローズ、ありがとう。あなたのおかげで勝てた」


「えっ――」


 ジャレッドが、私の身体を抱きしめる。


「――無事でよかった」


 ど、どどどどどどうしよう!?

 男の人に抱きしめられるなど、生まれて初めてだ。

 アンソニーとにも、こんなことされたことがない。

 というか。

 ――今の、メインストーリーの台詞じゃなかった……?

 ――もしかして、負けイベントで魔物を倒すとメインストーリーの闇堕ちそのものが起きないの!?

 ――どうしよう。

 ――また、シナリオを改変してしまったかもしれない。


「……ローズ」


 熱っぽく、耳元で囁かれる。

 ジャレッドの体温にすっぽり包まれて、息ができない。

 押し返すべきなんだろうけど、身体が石になったように動いてくれない。

 心臓が早鐘を打つ。



「俺は――」


 頬に手を添えられる。

 なにか言わないといけない、けれどなにを言ってもジャレッドは止まらない気がした。

 ぎゅっと目を閉じた、そのときだった。


「ああ! よかった、無事だったんですね!?」


 エルム先生の声がして、私たちはばっと離れた。


 ――今、なにかとんでもないことが起こりそうになっていた気がするわ!?


「救難信号が届いていたのはわかっていたのですが――二人とも見つからなくて! 無事に見つかって本当によかった!」


 エルム先生が私たちをまとめて抱きしめる。

 先ほどのよくわからない空気は、どこかに行ってしまっていた。

 

「さあ、三日間経ちましたし帰りますよ!」


 エルム先生がにこにこと笑い、私たちを引っ張って山の外に出す。

 麓では怪我をした生徒も含め、みんなが手を振って待ってくれていた。


「――気のせい、だったわよね」


 私は自分にそう言い聞かせ、みんなのところに戻る。


「みんなー!」


 心臓がうるさいのは、魔物と戦ったからだ。

 そう思って、私は帰路についた。




  ★





 学園に戻ってくれば、全てが元通り――とは、いかなかった。


「ローズ」


 ジャレッドが、優しい声で私の名前を呼ぶ。


「今日は勉強会はしないのか?」


 ――まただ。

 私を見るジャレッドの目が、あの日からなんというか、違う気がする。


「ジャレッド様……なんというか、変わられましたね?」


 リリーがジャレッドの顔を見て、驚いた様子でつぶやく。


「ああ。覚悟が決まったからな」


「覚悟、ですか」


「はいはい、そこまで」


 こちらをじっと見つめるジャレッドに、アンソニーがチョップをする。


「ジャレッド。ローズは僕の婚約者だよ?」


「ははは、わかっているとも」


「わかってるならなお悪いよ?」


「ははははは」


「ふふふふふ」


 よくわからないが、二人とも楽しそうでなによりだ。

 リリーが、私のことをじっと見つめていた。


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