第10話 紹介

 次の日の朝コウは早く目覚めてしまったので、まだ人通りの少ない街中をぶらりと散歩する事にした。彼には元々散歩する趣味なんてなかったが、どうも考え事が多すぎて外に出たくなったのだ。


 朝の薄く青い世界は彼の心を落ち着かせるこによく役に立つ。一旦頭を空にして歩く事に集中した。


「っと」ドン


 突然背後から小さな衝撃を受ける。彼はよろめき眉を顰めながら後ろに目をやった。

 そして……沈黙が訪れる。


「———」


 そこに居た者は“骸骨“であった。いや正確には骸骨ではないのだが……その体躯はポットのみによって構成されていたのだ。


 故に身体は向こう側が見えるほどスカスカで頭は頭蓋骨のよう。しかし歯も口もなく、のっぺりとして、随分年季が入っているようで所々錆びている。


 コウはその見た目に嫌なものを感じとり、じりじりと後退りした。すると焦点の合っていない赤く光る眼球がギョロリと動き彼を捉える。


「あ、あ、ぁ、すま、なかった」

 

 しゃがれ声が彼に届く。


「……えはい」


————カタ カタ カタ


 骸骨は何もなかったように通り過ぎていく。軽い機械音を鳴らして。


「……帰ろ」


***


 時間は経過しコウとマフェの二人は約束通りにギルドの前に来ていた。ギルドの内部には様々な施設があって、小さいながら食堂もあるようだ。そこにパーティメンバーが待っているという。


 どんな人々だろうか?少なくとも悪人でなければいいが、と思いながらギルドに入った。

 二人は右へ進んでとある扉を開けるとそこには、小綺麗な食堂が広がっていた。

 清潔感があって、昼だからか人もそれなりに居る...のだが………角にあるテーブル席の周りを避けるように皆席についている。


 そしてその角席には、三人の男女が俯いて、カビが生えるくらい陰気臭い雰囲気で座っていた。


「(まぁやばい人達なんだろなぁ)」


 と呑気に思っている彼を知らずマフェはその三人の方向は進んでいく。


「(あぁ……え?もしかしてアレ?)」

 

 予測は現実へと早変わり。彼女は三人に「おはよう、新人を連れてきたよ」と声を掛ける。彼等は顔を上げて驚くような顔で二人を見上げた。


「……どうもこんにちは」


 コウが挨拶すると目つきの悪い男がそれに応える。


「やぁこんにちは初めまして。一つつ質問していいか」

「えぇはい」

「君の[等星ブランド]は?」

「6です」


 等星ブランド———それは冒険者の格を示す一つの指標である。仕事を達成していくと値が小さくなる単純な仕組みのものだ。

 因みにブランドにはそれぞれ受けられる恩恵があったりして、高くなればなるほど良い待遇になるので上げて損はない。


「やったーーーまた墓地にお墓が増えるぞーー」

 

 そう不穏で感情の困っていない言葉を言ったのは無骨で光沢のある鎧を着た金髪の女。若いようだがどうしてかその青い目は死んだ魚のように濁っている。


「ah?」

「新人君……何より先にパーティの規則について少し説明をするよ」


 そして最後の一人、ふわりとした紫髪で首に傷跡が見られる女が語り出した。


「このパーティーにおける規則は一つ。

【死なないこと】さ。

ま、今のいままで守れた新人は居ないんだが。というのも話は逸れるが、このパーティーの始まりは私達四人組でね……パーティーってのは五人いなきゃ成り立たないんだ。そうすると人手が足りない訳。だから初め私達は人をスカウトしたの」


「はい」


「その人ね……10日も経たずに強盗に襲われて死んじゃってね……私達はもう一人必要になったんだ」

 

「はい」


「次の人は見つかったんだよ。でもね?その人も10日も経たずに雷に打たれて死んじゃってね…私達はまたもう一人必要になったんだ」


「は、はい?」


「次の人は……鳥が落とした石が頭にぶつかって……ね?……それでまた……ね?だから死なないように気を付けて欲しいんだ……ね?」


「あー待ってくださいね………三人も死んでるじゃ無いですかなんですか?」

  

 驚愕である。このチーム内だけで1ヶ月で三人も死んでいるらしい……


「23」


 あの目つきの悪い男がポツリと呟く。


「え?」


「パーティーが出来てから10ヶ月…今までの合計」


「勘違いであればいいんですが……まさか死人の数だと言うわけじゃないよな?」


「その通り…………………………そしてお前もその仲間に入れてやるってんだよ!ははははは!」


 といきなり笑い出す男。チラチラと周りの視線がこちらに集まる。そしてそんな事を気にできないほど衝撃の事実が判明。

 10ヶ月で23人——つまり1ヶ月に2.3人の死者!わざと殺しに行ってるとしか思えない量だ!

死にすぎである!


 いや、冷静?に考えればそれがこの世界での普通という可能性もある。


「普通のパーティーなら数年に一人くらいだからね!大丈夫!」


「そうですかそうですか黙ってね」


 金髪がそういうが一体何が大丈夫なんだろう。もう確実にこのパーティーはイカレてる。


「わ、わざとなんでしょう?そういう商売でしょうアンタ達」


「人聞きが悪いよコウ。彼等は全員パーティー外の原因で死んだんだからね」


「あり得ない……天文学的確率だろ?それ」


「実際ギルドにも少し悪い認知をされててね〜ほら周りをみてごらん?だ〜れも私達に近づかないでしょ〜?皆不吉がるんだ。巷では死を呼ぶパーティーとしてもはや神格化されてるからね。えへ!」


「もう終わりだよ………」


 と彼は行く末に大きな不安を見た。

  

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