第13話
目を覚まして目にしたのは二度目の天井だった。
俺はまた何日も眠っていたのだろうか……。
辺りを見渡しても誰もいなかった。少し寂しい。
今回も無理矢理魔力を通した右手を確認するが、普通に動かせてる。またクレア先生に治して貰ったって事か……。
そうなると治療費が心配になってくる。まだ前回のも払いきってないし。
何はともあれ此処に居るってことはシャドウを倒せたって事なのか。
思考に耽っていると誰かの足音が近付いてくる。
「あんたもう起きてたのね」
足音の正体はリナだった。
「今回はどれくらい寝てたんだ……?」
気になったことを聞いてみるとリナは笑いながら答えた。
「今回は一日くらいよ」
意外と寝ていなかった。
「そうか……、他のみんなは無事なのか?」
「……エマちゃん以外はみんな無事よ。疲れやダメージは残ってるけどね」
「エマは大丈夫なのか……?」
「わからない……クレア先生が云うにはスキルの影響だろうって」
「スキルの影響って……つまりエマもスキルを持っているって事なのか。どうりで詳しい訳だ」
「まあ、そうなるわね。使うことで体に影響のあるスキルを持っているってことに」
「…………、」
そんなスキルを使わないといけないほどシャドウは強かったって事か……。それに最後に見せた――厳密には見えなかったが――あの動きは人間離れした早さだった。
「今はクレア先生に任せるしか無いわね」
「そう……だな」
今は全員無事……とはいかないが生きて戻ってこれたんだそれでよしとしよう。
「そういえば、シャドウは最後、魔王になるとか云っていたけれど、どういう事なのかしらね」
「それがアイツの目的だったんじゃ無いのか?魔力を集めるだけで魔王になれるのかは知らないけど」
「魔王幹部ってことはおそらく他にも居るって事だろうし……わからないことが多すぎるわね」
「シャドウと同等かそれ以上の奴がまだ居るって事か……」
「まぁ答えが出ない事を考えていても仕方ないし、それに不幸中の幸いにもあたしたちはこうして生きてる。それで良いじゃない」
「そう……だな!」
思い返して見れば本当に色んな事に巻き込まれた。まだ冒険者になって二週間程度しか経っていないと言うのに。
何度死にかけたことか……。
それでもこうして生きてる。
だからこれからも俺は冒険者として生きていけるんだ!
するとそこでクレア先生が部屋に入ってきた。
「あら?お話しは終わったのかしら」
「先生!エマは無事なんですか!?」
「一応は無事よ、少し危なかったけど今は落ち着いているわ」
「そう、か……良かった……。でも、俺たちが誘わなければ、そんな危険なスキルを使わなくても良かったんだよな……」
はぁ……と、ため息をついてクレア先生は言った。
「あの娘が居なかったら貴方たちが死んでいただけよ。それに、スキルを使わないと倒せないと判断したのはあの娘、貴方たちに責任は無いわ」
責任は無い?そんなわけ無いだって……、
「責任はあるだろ!俺が弱かったからエマはスキルを使わざるを得なかった……」
「なら、強くなりなさい。それが今の貴方に出来る責任の取り方よ」
「強くなる、か……そう、だよな。俺の目的の為にも強くならなきゃいけないしな!」
「お父さん探しだっけ。こんな調子だと見つける前にあんたの方が先に倒れそうね」
「こ、これから頑張るんだよ」
「父親……ね、名前を聞いても?」
「『インバート』それが父さんの名前だ」
はっと息を呑むクレア先生。此方を見て懐かしんでいるように見える。
「そう……貴方があの人の息子さんだったのね」
「知っているんですか!?」
父さんを知っている人は意外と近くにいたのか!
「昔貴方の両親とパーティを組んだことがあるってだけよ。今インバートが何処にいるかまではわからないわ」
「そう、ですよね……」
そう簡単に手がかりは見つからないか。
「そう気を落とさずにね。インバートは強いからきっと何処かで生きているわよ」
「そう、ですよね!なら、もっと強くなってこの街以外にも探しに行かないとな」
「張り切るのは良いけど、あんたはその前に治療費を払わないとね」
「わ、忘れてた訳じゃないぞ」
二回分の治療費の事を考えると気が重くなる……。
「そうそう治療費について伝えなきゃいけないことがあったのよ。今回貴方たちが倒したシャドウは、貴方たちの話と街での不審人物の人相が一致したから同一人物ということになったの。その結果、街で起きていた新人狩りや行方不明事件の首謀者である魔族を討伐したと言うことで、貴方たちにギルドから特別報酬が支払われることになったのよ」
「つまりそれがあれば治療費が払えるってことか!」
「今回のはね」
「……………………今回の?」
「残念だけど今回の報酬と治療費が同じくらいだから、前回の治療費はまだ残ってるわよ」
「くそぉ……それだと俺だけ損した気分だ……」
一人だけ実質報酬が無い事に肩を落とす。
「あんたが無茶するからよ、ちょっとは反省しなさい。……まぁ、その無茶のおかげでみんな生きてる訳だけど」
「こうなったら、こんな悲しい思いをしないように、無茶をしなくても良いくらい強くなってやる!」
改めて強くなることを決意するカイトだった。
するとそこに、ハヤテとアリアがお見舞いに来た。
「元気そうっすねカイト、今回は早く目覚めて良かったっすよ」
「今悲しい現実を教えられたとこだけどな……」
「ほ、報酬の件ですか?」
そうそうと頷く。
「な、なら私の少し分けましょうか?私は貰う資格が無いと言うか……」
首を横に振り言う。
「いいよ、別にそこまでしなくても。それに、貰う資格ならあると思うぞ」
「そうっすよ。ちゃんとあの時、攻撃防いだじゃないっすか。自分のために使うべきっす、オレは早速武器を新調したっすよ!」
そう言い買ったばかりの武器を見せつけてくる。
「あんた報酬貰ったのついさっきじゃない。ああ、そうかここにくる前に寄り道するって、武器屋に寄ってたのね」
「ギクリ……!ええと……ほ、ほら前々から目を付けていた物が無くなったら嫌じゃないっすか!だから先に買いに行ったんすよ!」
汗をたらしながらも身振り手振りを交えながら言い訳をするハヤテ。
そんなハヤテを見て笑いが沸き起こる。
この光景を見ていると、本当に色々な事が合ったが、こうして冒険者になれたことを改めて実感するカイトであった。
剣と魔術と七人の魔王幹部 @john-purin
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