第9話 夜の街のシンデレラ

通知をクリックして、チャットアプリを立ち上げる。


「何かいい情報はあった?」


---未読---


「あんまりだな」

「そもそもこの学校は人数が多いし、情報が少なく過ぎる」


彼は大学からの悪友で授業をサボるに全力をつくし協力する関係で、一緒にやったバカな悪行は上げていくとキリがない。


彼の凄く所はどんな年齢、性別に趣味や性格の人とも一気に仲良くなれる所で、すっと知らないグループの会話に入って行くとそのまま仲良くなって帰って来る。


おかげで彼のスマホの通知はひっきり無しに来てなかなか返信が来ないのだが、僕にはすぐ返信してくれる。


これには全米が涙無しでは見られない深い理由がある。


そもそも何故、こんなやり取りが生まれているのかと言えば、僕は数日前から彼女の学科学部本名を探そうとしていた。


本人が目の前にいるのだから、直接聞けば良いと言うのはごもっともであるが、のらりくらりとはぐらかされ、そこを自分の力で調べるのも彼女に言わせてみればゲームの一環らしい。


「まぁそうだよな」

「源氏名なと雰囲気、夜のお店で働いている情報だけだと流石にキツイか」


うちの大学は学校全員を合わせると、2000人を超え、更には学部学科で違う場所にキャンパスがあったりする。


サークルで会ったことがあるとゆう情報から絞ろうとしたが、友達をたくさん作ろうと、いろんな策に飲み会に出ていたのが災いし、捜査は難航していた。


「にしたってどんな状況だよ」

「夜の街で潰れてたら、幼馴染みのお姉さんににホテルに連れて行かれるって」


「自分でもびっくりだよ」

「この状況がお前だったら、うらやましすぎて、二度と口を聞かない自信がある」


「俺らの2年間で気づき上げた、熱い男の友情が一夜で覆されるってマジか?」


「僕はむさ苦しい友情よりも、目先で女の子が困っていたらお前そっちのけでその子を助ける」


「友達がいの無いやつだ」

「お前に彼女の事を知ってるかもしれない人を紹介しようと思ってたけど、そんな薄情のやつには無用な気遣か」


「ごめんなさい、嘘です。僕の数少ない親友を見捨てたりなんてしません」

「何でもするから許せ」


「それじゃあ約束通り焼肉奢れ」

「高い所のやつな」


あの野郎、足元みやがって!


まあ、なかなかに手痛い出費だが彼の情報に今は頼るしかない。


それに変に貸を作っておくと後で高くつきそうだしここで返した方がいいだろう。


「分かったよ、あとで奢る」


「死ぬほど食ってやるから覚悟しとけ」

「ちなみに今お前何してるんだ?」


「例のその子とデート中」


「お前を殺す( ゚д゚)」



メッセージを既読スルーし、椿と一緒に観覧車に向かい整理券を購入し、係員の指示に従い向かい会って乗り込む。


さすがに地元にあった遊園地とは違って、作りがしっかりしていて、ギシギシと音を立てることはなかった。


下から頂上を見ると、あまりの高さに腰を抜かしそうだ。


「椿は高いの平気か?」


「平気かな、人並みって感じ」

「お兄さんは?」


「少し苦手かな高所恐怖症みたいな感じではないけど」


係員に誘導され乗り込み、扉を閉めてもらう。


「お兄さん、今日は楽しかった?」


「楽しかったよ」

「こうやって普段行かないところをいろいろ巡って、いろんな新しいことを知れてよかった」


「そっか」

「楽しんでくれたならお姉さんは満足です」

「私も楽しかったよ、こんなに無邪気にはしゃいだのなんていつぶりかな」


「確かにだいぶ楽しんでたな」


当初の目的は匂わせアピールする為の写真を撮ることだったが、気がつけば俺も彼女も普通にデート?を満喫していた。


「ちなみに、今日の私はお兄さんの好きな私だったかな?」


「いきなり好きって」

「お前まぁ確かに会話してても面白くて、いろんな所に連れてくれて、凄くその良かったです」


いきなりの好きとゆう言葉を素直に返せるほどの勇気は、僕にはなかったが思いだけは伝わって欲しかった。


「そっか、今日みたいな私が好きなんだね」


「まあ椿は別にどんな格好でも似合うと思うよ?」


なんだか少し会話に違和感を覚える。


「まあ私は基本どんな格好でも似合っちゃうからね」

「それにお兄さんこうやってぐいぐい来る、甘えて来るタイプに弱いでしょ」


「黙秘権を行使させて貰う」


なんだか性癖を知られてしまったみたいで恥ずかしい。

まぁ実際その通りなんだが。


「今日の1日のデートでお姉さんまた成長しちゃいます」

「もっともっと君の好みになって私のお店に毎日通わせちゃいます」


「幼馴染をお店が太客にしようとするなんて前代未聞だぞ?」


「私たちの関係は、これまでの時代の枠にこだわらない革新的な関係を求めているので」


「革新的な関係が幼馴染みと、客の関係はさすがに嫌だな」


彼女は夕日に目を向け、ゆっくりと語る


「私ね夕日があまり好きじゃないんだ」


「珍しいな」


「珍しいよね」

「美しく輝いて見えるけど、それは一瞬だけ。その役目を終えればいつの間にか消えちゃってる」


「まぁそうだな」


「そうしてまた暗くて長い夜がやって来る」

「でも、2人で見る。今日の夕日は案外と嫌いじゃ無いかも」


「ならよかった」

「俺でよければいつでも付き合うよ」


「本当?」


「本当だよ、俺は嘘をついたことがないのが取り柄なんだ」


「それは流石にウソだね」


観覧車の高さが頂上へと近づき、それに合わせるように夕日も徐々に沈み小さくなる。


「このまま沈まければいいのに」


「じゃあ犬にでも逆立ちさせてお願いしようか」


「ワンって鳴いて終わりだよ」


椿の目は変わらず夕日を映し続けているが、他の何かを見ているような気がもする。


一緒の物が見たくて釣られるように彼女の目線をたどるが、僕には何を見ているかは分からなかった。








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