第8話 星の数ほどいるけれど手が届かないから美しい美しい

チャットアプリでメッセージを送信し、周囲を見渡す。


車内から見える景色は夕焼け色に染まり海に反射してキラキラと輝いており、列車内には会社や学校終わりのお客さんが増えて来て今日の終わりが近いような感覚がした。


人の多さに少し息苦しさを感じながら列車に揺られ観覧車の近くにある駅に到着し、改札を抜けると海沿いとゆう事もあり風が強く吹いていて、彼女の黒く綺麗な長い髪をなびかせた。


「うわさむーい!」


息を手に吹きかけ、こするようにして暖を取っている。


「海沿いだとこの時期でもこんなに寒いんだな」


確かに空気が冷たくて手をポケットに突っ込む。

夢の島とかも結構場所的に寒いんだよな、クリスマスにカップルであそこに行く連中には頭が上がらない。

今後とも愛の力で千葉県を温めて頂きたい。


「あ~あ、寒いな~」


「そろそろ手袋とかあった方がいいかも知れないな」


「そうゆうことを言いたいんじゃないんですけど」


ぶすーっとした顔で、拗ねたようにそっぽを向いてしまう。


これはもしかしなくても彼氏役してしなくてはいけないことがあるのだろう。


「えーっと、何かあったかいの飲む?」


「飲み物はさっき奢って貰ったので大丈夫です」


「あーじゃあ、あれだなあれ」


やべえ、ぜんぜんわかんねー。

取り敢えず何かないかと周囲を見渡すと、たぶん正解を見つけた。

でもやっていいのか?これでもし間違っててキモがられて振りほどかれたら二度と恋なんてできる気がしない。


そもそも俺なんかがそんなことして彼女は喜ぶのか?


彼女の様子を伺うと顔は夕焼けに照らされてか、恥ずかしいのか少し赤く染まって見えた。


ここで行動で勇気を出せないのは男じゃない。

嫌な顔されるのがなんだ自分が傷つくのが怖いだけで、そんなのはあの夜の恥ずかしい自分そのままだろ。


彼女の隣に立っても見劣りしない、彼女にふさわしい男になりたい。


椿の右手にを優しく触れ、探るようにして右手を握る。


「これで少しは温かくなっただろ」


彼女の手は思ったより小さくて柔らかかった。


てかヤバイ手汗とか大丈夫かな、もしかして顔も赤くなってるか?

てかこれでそもそもよかったのか!?


「やっと正解です」

「てゆうかもうちょっと早く繋いで欲しかったかな」


「仕方ないだろこうゆうの初めてで、キモがられないかとか振りほどかれたりとか心配だったんだよ」


「いいですかお兄さん」


ぐいっと顔を近づけ優しい声で語る。


「私はお兄さんにそうゆうことは思いません」

「そもそも子供の頃の友達に久しぶりにこんな所で会えて、なんなら期間限定とはいえデートまでしちゃってます。少なくともそうゆうことをされたくない相手とは私はこんな関係になりません。もちろん限度はありますが」


「あ、はい」


「だからもう少し自信を持って堂々としていて下さい。お兄さんは容姿は気を付ければ容姿はそれなりに整っていますし、背も高くておまけに優しいです。結構なハイスペックです、好条件です、優良物件です」


「それはどうも」


「だからこうするのが正解。男ならもう少しグイグイ来てくれた方が女の子は嬉しいんです。テストに出るので覚えておいて下さい。」


握っていた手の指の間に一本ずつ指が絡まる。


「分かりました」


「じゃあ早速行きましょうか」


頭が色々とエラーが起こっている中で引っ張られるように、足を動かす。


「せめて文化祭は私をエスコート出来るまでになってて欲しいかな」


「さすがにそれは難しい」


経験豊富な彼女を満足させられる男など、大学中を探してもなかなかいないだろう。


「てか観覧車って最近乗ったか?」

「俺なんて小学生のころ地元の観覧車に乗ったのが最後だぞ」


「私もそれくらい前かな?君たちと乗ったのが最後」

「前から乗ろうかなって思ってたけど結構値段が高いし、ここあんまり遊びに来ないし」


「まじかよ、一緒に観覧車乗ったのか?」


確かに友達同士で遊園地には行った記憶があるが、ただその時は男友達だけだった気がする。


「乗ったよ、あの狭くて古くてギシギシと音が出る観覧車でしょ?」


「そうそう!うわ懐かしー、あれは高さとかじゃなくて別の意味で怖かったよな」

「四人乗っててみんなでギャーギャー騒いで軽くパニックになって」


「今思い返せばめちゃくちゃ面白かったけどあの時は本当に死ぬかと思ったぜ」


「あれからもう十年以上経ったのか。みんな元気かな」


「どうだろうな。元気だと良いな」


「そうだね」


施設に入り元々大きかった観覧車がさらに大きく大きく感じる。


「久しぶりにこの間あの遊園地行ったんだ」

「そしたらあんまり人もいなくて少し寂れてて、大きかった遊具も何だか小さく見えて何だか寂しかったよ」


「その気持ち凄いわかるな」

「過去の記憶が思い出がきれいな分だけ、そうゆうのを見ちゃうと寂しい気持ちになちゃうな」


いつの間にか観覧車の入り口もかもう見える所まで来ていた。


さっきの返信が来ていないか気になり、スマートフォンを取り出すと通知が来ていた。






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