Zの恋愛
ぬのむめさうか?
第1話 ゼットン
「きっとさ、結婚なんてもうしなくていいんだよ。」
中村悠陽は、そう言った。27歳で、彼氏はいない。最後に作ったのは大学頃で、社会人になってからは作らなくなった。こんな不況だから、お金もないし、貯金も出来ない。こんなので、みんなどうして彼氏を作ろうと思えるのかと頭を抱える。久しぶりにあった友達は、
「え?ディスコ行けば男が奢ってくれるし、マッチングアプリもそうでしょ?彼氏なんて作り得じゃん!」
そう言った、脇にはシャネルのバック。もちろん、羨ましくなんかない。私だってと思いつつ、苦笑いをするしかなかった。そうして200GBの片隅のマッチングアプリに目を向ける。やっていたけど、どうにも合わなかった。楽しくもないのに相手にデート代を全て出してもらうことに気が引けて、結局全額おごって貰った試しがない。
「ここは俺が出すよ」
そう言った男の年収を思い出す。年収400万~600万。この振り幅はないだろうと毎回思う。年収400万と年収500万でもだいぶ違うのに…と思う私は、年収450万。キツイキツイと思いながらも、狭い部屋に耐えられず9万出して広い部屋に住んだ。大学時代は足を抱えて入っていた風呂、ついに足を延ばせた瞬間の幸せが今でも忘れられない。この人は、足を抱えて風呂に入っているのだろうか?少なくとも私には奢るなんて余裕なんてあるわけがない…彼が足を抱えている風景を思い浮かべた瞬間、
「あっ、大丈夫です。私出します!」
…と、つい言ってしまうのだ…私の馬鹿…
お財布の中身はいつも寂しい…お札がクーポン券の枚数に勝るのはデートの時だけだ。なら、年収600万以上に…と思うが考えるのはみんな一緒、いい女の総取りである。デートは大体1回やったらさようならだ。会う瞬間の、あっ…想像と違うみたいな顔を本当にやめてほしい。選ばれていると思った瞬間ついイラっときて、…ひとつひとつ…最後に、相手の自己満足の会話の相槌に疲れて、
「どうですかね~」
といった瞬間が終わる。年収が高くて、性格も良くて、センスも良くて、身長も高い。うん、そんな人マッチングアプリなんかやってないわ!…で、同じくらいの人を探す。そして、相手の狭いお風呂を想像するのだ。友達のあのシャネルのバックは、年収いくらの人に貰ったんだろうか…どっちにしてもいけ好かない。衝動的に、人差し指でマッチングアプリは消してしまった。
「どうせタダだしね。」
家の玄関付近で丸まったクリーム色の猫をみて、回想終わり、そしてやっと現在。帰るや否や、急にポテトサラダを作ろうと思いいたり、ボウルの中で芋を潰している。切った胡瓜やハム、卵を混ぜ合わせるのは辛い、腕がしびれて、毎回誰かにやって欲しくなる。絞り出すマヨネーズは控えめ、塩味が強く、まろやかさが薄いほうがお酒の当てにはいい、別に今日すべて食べ切ってしまうわけでもない。今は食べないからタッパに入れて冷蔵庫にしまう。
「…これだけで…ああ、腕が痛い。」
普段のちょっとしたストレスを解消するために作り出しのはいいが、やっぱりかなり疲れる。というか芋、とにかく芋が問題だ。作るたびに後悔している。潰しながら毎回、馬鹿なんじゃないかと凄く思う。そして、そんな私の姿をコーヒー片手に眺めている奴がいる。これ世良飛鳥、性別男。年収1千万。
「ねぇ、飛鳥手伝ってよ。」
「ごめん、俺食べる専だから。」
大学時代に出会った変人。顔はかなり良いから、大体隣に女の子がいた。男友達といたのはあまりみたことがない。講義の席で一緒になり、私がノートに模写した教授の顔を模写して、平凡な顔過ぎてあまりにもつまらなかったので、想像で段々と老けさせていった。満足のいくロマンスグレーになったと思う。うん、絶対こうはならない。彼はその過程をずっと観ていたようで、講義中に
「何書いてるんですか?」
と話しかけてきた。やばい、みられたと思った。もちろん悪いことをしているわけでないし、こいつに責められる言われもない。でもしまったと思った。咄嗟に
「教授の顔を老けさせているんです」
そのままを口にしてしまった。
「へ〜。器用なもんですね、それによくこんな遠くから見えますね。」
口調から感心していることがわかる。どうやら授業中の落書きを注意したかったわけでも、私を笑いものにしたかったわけでもないらしい。
「私、目はいいんです。」
講義室の前から10番目くらい。ぱっと見顔の判別なんてほとんどつかないのが普通だろう。でも私は大体見えるから大体で書ける。想像でかく。
「変な人ですね。」
ここで気がつく、彼の頭には室内でかけるわけでもなくサングラスが乗せられていた。貴方、室内でもサングラスかけるんですか?と言いたくなり、
「貴方、室内でもサングラスかけるんですか?」
聞いてしまっていた。それがきっかけなのか、講義のたびに雑談するようになった。変人同士、気が合ったのだろう。自分が大体アバウトに世の中の人間と違っていることは、中学生くらいには気がついている。そんなやつと話そうというのはそれだけほぼ変人だ。そして私の中の彼の変人は、あの室内で頭に乗せたサングラスから始まった。そんなこんなのある日、オシャレな喫茶店での出来事。
「毎回、女の子隣に連れてるよね?そんなにモテるの?」
気軽な間柄になって、そんな踏み込んだ質問も全然するようになる。
「いや、別にそういうんじゃないよ。なんでかな…男とは、あんまり話が合わないんだよ。毎回おんなじ事じゃべっているし、会話に飽きるんだよね。女の子といた方がいっぱい話題も触れるし、聞けるし、だから楽しいし、やっぱり話も合うから。」
モテるのは大抵こういうやつだと思う。聞き上手で、話好き。ここで衝撃の言葉が続いた。
「あと俺実はさ、ボッキ出来ないんだよね。」
周りの席の人が不意に振り向く、サングラスが更新された瞬間だった。
「え?男が好きなの?」
この返しは流石に無かったなと後で反省した、家に帰って2時間くらいこのことを考えて、寝る直前にまたしまったなぁと思った。まぁ彼はニヤリと笑っていたんだけど…
それから何故か輪をかけて仲良くなり、あいつは彼女だのなんだの言われたが、こいつの過去を考えたら全くそんな気にはなれない……
現在に戻る。コイツは手伝わずに、ちゃっかりおつまみように作った先ほどのポテトサラダを小皿に分けていつでも食べられるようにしている。
「あのさ、飛鳥。ポテトサラダ自分の分取り分けるなら、私の分も取り分けてよ。」
そういうと、戸惑ったようにポテトサラダと私を交互に見つめている。こいつは気が効くのか効かないのかわからないところがある。察しはいいから、考えていることを見透かされることはある。でもこういうところ、こういうところが気が利かない。
「え?悠陽の分もよそったほうがよかった?」
「いや…っ」
いや、そう言うことじゃなくてさ…!という言葉をすんでのところで飲み込んだ。どうせ言ってもわかってなんてくれない。人間なんて所詮は分かり合えないように作られているんだ。
「いいけど、作ったやつ向こう持っていって」
「ああ、うん。」
飛鳥にはこうして、たまに一緒に家で食事をして、話し相手になってもらっている。独身だし、当分マッチングアプリなんてする気はないが、でも話し相手は欲しいのだ。人間所詮、1人ではいられないのだろう。
「並べ終わったよ。」
「はい、ワインこれも持っていって」
「は〜い」
女癖は悪い、男癖も悪い、でも素直ないいやつなのだ。
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ゼットン
ウルトラマンが好きなんです。特にバルタン聖人。
Zの恋愛 ぬのむめさうか? @NunoMumeSasuka
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