第15話
『あ、やっと起きた。お前寝過ぎ、寝不足か?』
マリーが目を覚ますと、そこには町の人々から貰ったアップルパイを短い前足で器用に取りだしながら大きな口を開けて頬張るぬいぐるみの姿があった。
「夢じゃなかった…」
『夢?俺が?まあ、お前にとっては夢の様に光栄な出来事だろーな。俺に会えたんだから』
「う、うん…多分この国で喋るぬいぐるみに出会ったのは私だけだと思う」
『喋るぬいぐるみなんて探せばいくらでもあるだろよ』
「え?魔具のこと?でも魔具は食事しないし」
マリーは次から次へと袋から食べ物を取り出して喰い尽くすぬいぐるみを控えめな眼差しで見つめた。
『いや〜、いましがた大仕事をこなしてきたとこで超腹減ってたから助かったわ、サンキュー』
言いながらむちゃむちゃと尚も食べ続けるぬいぐるみ。
しかしそのふてぶてしさもどこか憎めない。
マリーの荷物の中の食べ物を全て食らいつくしたぬいぐるみはやっと満足したのか、げぷっ、と口から息を吐き、その巨大な体を地面に寝かせながらマリーを見上げた。
『…………なにしてる、腹を撫でろ』
「え、」
『俺の腹を撫でさせてやるって言ってんだ、はやくしろ。食い過ぎて苦しい』
「うん…」
そうしてしばらくぬいぐるみの言うままに綿のたっぷり詰まったぬいぐるみの腹を撫でていると再びぬいぐるみが口を開いた。
『お前になんかお礼してやるよ、なにがいい?』
「お礼?どうして?」
『あ?そんなん俺の気まぐれに決まってんだろ。俺がお礼してやるって言ってんだから素直に答えろよ』
ぬいぐるみの横暴な態度も、丸々としたそのフォルムとつぶらな漆黒の瞳によってなんだか愛らしく思えてくる。
「なにが良いか聞かれてもよく分からないな…」
『なんだお前、願望ないのか。なんかあるだろ、服が欲しいとか、アクセサリーが欲しいとか』
「んー、服はいつも頂くし…特に…」
『じゃあ行きたい場所とかなりたいものとか夢ってやつ?叶えてやるよ』
「未来のことまで叶えられるの?」
ようやく興味を持ち始めたマリーに、ぬいぐるみは今までどこに隠していたのか、急にニィっと口を裂けさせ、ギザギザの歯を見せて笑う。
『出来るさ、代償があればな』
「代償?」
『未来はもう決まってんだよ。だけどお前らの人生には分岐点がある。その分岐を間違え無ければ未来は変わる。俺がその分岐になってやっても良いが、言葉を間違えるなよ?代償は俺が決めるんじゃない、お前の口にした夢、願いの言霊によって世界が微調整するんだからな』
ぬいぐるみの言葉の意味をマリーは理解出来なかったが、藁にもすがる思いから頷いてしまった。
『じゃあ言ってみろよ、お前の願い』
ぬいぐるみの漆黒の瞳にマリーは引っ張られるように思いの丈をぶつけた。
すると、ぬいぐるみは意外にも小馬鹿にすることもなく、ただ『聖クラレント魔法学園に行け、そこにお前の求めるものがある』とだけ言って、その体をパッと桜の花びらに変えて消えた。
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