第4話

町医者の家に生まれた青州せいしゅうは戦闘で負傷し、この町に降ろされた海軍や陸軍隊員の治療に追われていた。



父は軍医として戦地へと派遣され、父が留守の間は青州が町での治療を担っている。



(それにしても最近はヤケにここに降ろされる怪我人が多いな…それに軽傷の隊員もちらほら居るし…人員補充でもされたのかな?)



そんなことを考えながら青州がせっせっと怪我人の手当をしていると、バタバタと廊下を走る音が聞こえ、次の瞬間には着物に鮮血を付けた状態で鬼気迫る表情をした幼馴染の撫子が乱暴に扉を開けて飛び込んできた。



「せいちゃん大変!死んじゃう!」



「!?その血どうしたの!?」



いつも身なりの綺麗な撫子が、相当急いで来たのだろうか、着崩れた着物など気にする風もなく、「これは私のじゃないの!はやくついてきて!」と青州の腕を取り、走り出した。



「ええ!?なーちゃん、どこ行くのさ!まだ沢山患者さんが待ってるのに…!」



「アイツらはどーせ軽傷でしょ!?手当が終わるなり町で遊び回ってるの私知ってるんだから!それよりこっちの患者の方は死にそうなの!」



「いいぃいい〜!なーちゃん声が大きいよ!軍人に聞かれたらどうするのさ!僕も君もただじゃ済まないよ!」



走りながら不安そうにキョロキョロと辺りを見渡す青州に、撫子はふん!と鼻を鳴らした。



「なによ!町で唯一残った医者のせいちゃんと、この一帯でも一番大きな旅館の娘の私を罰せるものなら罰してみなさい!金輪際誰も軍の面倒なんかみないんだから!」



「……あはは…そうだね」



そう堂々と言い放つ撫子に、青州は困った様に笑いながらも、そんな風にキッパリと言い切る撫子がとても眩しく感じた。

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汚れたこの手に君の亡骸を(仮) 椿 @Tubaki_0902

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