あなたのものなどわたしだけ

「……面白くなんて、ないだろう」


 彼の胸部から腹部にかけてのネジを数十個外してようやく見えたその中身は、戦前のパーツと戦中のパーツが組み合わさってそのうち歪んで壊れてしまいそうだった。絡まったコードはすべて同じ色でできていて、素人の目からはどれがどれと繋がっているのかすぐにわからなくなる。指でなぞっていたはずの迷路が行き止まりに突き当たったみたいな気持ちで、指先は離れる。静電気の対策だけはしてくれよと言った彼が、ようやくホッとしたようにわたしを見ながら唇の端を上げた。

 型落ちのジャンク品で組み上げられたあなたの体があなたを成り立たせている。今や、あなたの体にあなただけのものなどなにひとつない(そう、わたしを愛しているという脳すら復元された模造品なのだから!)――だけれどわたしは、あなたのすべてが好きなままでずっと待ってあげていた。

 

「ねえ、英雄さん」

「英雄さんってのはやめてくれよ。その、なんだ、くすぐったい。ただの帰還兵なんだから」


 ずっと待っていたというのに、これじゃあんまりだなんて思う。思っていることを、あなたには言えない。彼はただの帰還兵。少しばかり帰ってきて、残りは何処かへ還っていった。

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ひとでなしども 烏有なずき @nkmntc

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