灰かぶりの竜、恋煩いの魔女

お茶漬け

序章:邂逅

第1話 醜き者

——竜とは、この世で最も醜い存在である。かつて、誰かがそう言った。


 決して死ぬことはなく、老いることもなく。聞こえはいいが、それは決して利点にはなり得ない。自らの存在をどれだけ否定しようとも、彼らは、生き続ける以外の道を選ぶことができない。永く生きた竜は、やがては理性を失い、発狂し、獣以下の存在と化す。


——竜とは、魔女の怒り・・・・・を買った者たちの成れの果てである。


 異常なまでの力を持ち、この世界の支配者たる存在である魔女。そんな魔女たちの怒りを買った者は、力の一部をその身に押し付けられる。強大すぎる魔女の力に、ただの人間の身体は耐えることができない。力は呪い・・として身を蝕み続け、やがてその身は、醜いとなる。


——竜とは、この世で最も醜い存在である。最も尊き存在である魔女に抗い、呪いを受けた者たちの成れの果て。



 そして、アドラ大陸北部に位置する小国、アルテリスにも、かの醜き者は存在していた。魔女によって、あらゆるものを灰に変貌させてしまう、恐ろしき呪いを押し付けられた者が。



『……この気配は……人……』



 百余年ほど生きながらえた彼の竜の理性は、既に限界を迎えていた。もう幾年か過ぎれば、他の竜と同じ、知性無き獣と化すだろう。


 そんな竜の前に現れたのは、まだ幼き少女であった。少女は呪いを宿した竜を前に、言った。



「やっと見つけた……私の、運命の人」



 灰にまみれた竜と、恋に溺れた魔女。二人が出会ったのは、灰の砂漠の中心であった。

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