第10話「悪口を言われて」
ある日の昼休み、柚葉は柚真がどこかに行っているのを見かけた。
まぁトイレか、何かの用事だろうなと思ってそのときは気にしなかった柚葉だった。
しかししばらく経っても柚真が戻ってこないため、もしかしてまた告白なのかと柚葉は思っていた。心が灰色になったと言っていた柚真を思い出していた。
(また告白なのかな……まぁ、そんなうまい話があるわけないか)
でも、あの柚真だ。告白を受けていたとしてもおかしくない……と思っていたそのとき、柚真が戻ってきた。手には何かを持っている。
「おかえり。どこか行ってたの? って、手に持ってるそれは……」
「あ、ああ、他のクラスの女子に、旅行に行ったからお土産って言って渡された……こんなことしなくていいんだけど、断れなくてもらってしまった」
柚真が恥ずかしそうに言う。なるほど、お土産を渡されたのか。まぁそれくらいなら……と思った柚葉だが、なんか申し訳ない気持ちになるのも分かるなと思った。
「そっか、もしかしてまた告白を受けているんじゃないかと思っちゃったよ」
「いや、それはなかった……なんか女の子のテンションは高かったけど」
「ふーん、まぁいいじゃん、ありがたくもらっておきなよー」
「うーん、お返しに何かあげた方がいいのかなぁ」
「そんなに考えなくてもいいんじゃない? 向こうがやりたいと思ってやったことだしさ。まぁお返しもらったら向こうは嬉しいと思うけど」
「そっか、そんなもんなのかな」
しばらくお土産を見つめた後、鞄にしまい込む柚真だった。
「うんうん、でも柚真は偉いよねぇ、ちゃんと相手のことも考えてさ」
「うーん、別に普通のことだと思うんだが……」
「それでもちゃんと考えてるとこが偉いんだよー……ん?」
そのとき、ひそひそとどこかから話し声が聞こえてきた。
「……あいつ、顔がいいからって調子に乗ってるよな」
「……ほんとほんと、なんだよお土産って、そんなの好きに決まってるじゃん」
「……またフッていい気になるのかな」
「……ありえるー、調子に乗りすぎだっつーの」
どこかから聞こえてきたその声は、間違いなく柚真に対する悪口だった。調子に乗ってる? 柚真が? 人の心の中も知らないで、何を勝手なことを言っているのだろうか。そう思った柚葉は急にガタっと立ち上がり、
「……あんたたちに何が分かるっていうの! 柚真が好きでやってることじゃないし、柚真の心の中も知らないで勝手なこと言ってんじゃない!!」
と、大きな声で叫んだ後、教室を飛び出した。
「あ、柚葉!!」
教室を飛び出した柚葉を追いかける柚真。一階の方に行ったはずと思って、階段を駆け下りる。しかし柚葉の姿は見えない。どこに行ったんだろうと探す柚真は必死だった。
自分のことを言われたのは柚真自身も分かった。しかしいちいち言い返しても無駄のような気がして、何も言わないでいると、柚葉が声を出した。突然のことで驚いたが、自分をかばってくれたような気がして、心の中では嬉しかった柚真だった。
中庭には……いないか、学食の方にもいなかったし、それじゃあ……と思った柚真は、体育館の方へとやって来た。ここにもいないのかな……と思ったそのとき、体育館の裏でうずくまっている柚葉を見つけた。
「……柚葉?」
柚真が声をかけるが、柚葉は動こうとしない。こちらも見てくれない。こういうときどう声をかければいいのか分からない柚真だったが、
「……柚葉、ありがとう」
と、一言だけ柚葉に言った。一瞬ぴくっと動いた柚葉が立ち上がってこちらを向いた。目が赤い。もしかして泣いていたのかと柚真は思った。
「……なんで、柚真があんなこと言われなきゃいけないの……」
そう言った柚葉が目元を手で拭った。ここには二人以外誰もいない。それを確認した柚真は――
「……ゆ、柚真――」
柚葉をそっと、抱きしめていた。
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