192
Nora_
01
「暑い……」
そこまで汗っかきなつもりはなかったけど今年はやばい。
でも、もう七月だから仕方がないと片付けて生きていた。
なにを言っても私に合わせて気温や環境が変わったりはしないけど愚痴を吐くぐらいは許してほしい。
「おーい!」
「ん?」
聞きなれた声が聞こえてきてそちらに意識を向けてみるとお友達の
今日は早々に出ていったのに謎だった、お家がこっちの方向にあるわけでもないから余計にね。
「とうちゃーく!」
「お疲れ様」
「うん、ありがとう! じゃなくて、すごいことがあったんだよ!」
正直に言おう、彼女がこう言い出したときは物凄く不安になる。
いきなり変なことに巻き込んだり、連れていったりする子だから……。
「なんとね、格好いい男の子が近くに引っ越してきたんだよ!」
「そうなの?」
「うん、そして私の勘だとあの子は私達と同じ高校にやってくるだろうね」
ほっ、今回の内容は平和だ。
それに格好いい男の子なんて現時点でもあの高校にはいるのだから気になるなら頑張ればいいのに。
「付き合いたいよー」なんて言っている子だけど積極的に動こうとしないのが彼女だった。
「話はそれだけ! かき氷でも食べにいこう!」
「はは、いいよ」
早めに帰ったところで両親が帰ってくるのは十九時過ぎだから一人だ、だったら彼女に付き合って遊んでいた方がいい。
「お、妹尾達もかき氷か?」
「お、奇遇だねーそうだよー」
まあ、私はおまけみたいなものの、普通に話すことはできるからお友達と言っても大丈夫だろう。
「
「はは、見れば分かるよ。諏訪は今日も巻き込まれたのか?」
「ううん、受け入れただけだよ」
勝手な妄想だけど彼の笑顔は汚いものがなにも混じっていなくて奇麗だと思う。
歩ちゃんの場合は基本的にはそうでもたまに、うん、そういう笑顔の種類のときだとこちらは笑えなくなってしまうものだ。
「そうか、ならいいんだ」
「むぅ、なんか嫌な感じ」
「巻き込んで好き勝手にやることが多いんだから事実だろ」
お店の前でぺちゃくちゃ話していても迷惑にしかならないから解散にしてこちらは注文を済ませた。
「矢後君もいいかもね」
「今度こそ頑張れそう?」
「え、私にとってじゃなくて泉にとってだよ?」
私にとってと言われても困るけど……。
周りがどんどんお付き合いを始めても私にはやり方が分からないから置いてけぼりになるだけだ。
彼女だっていまはいてくれてもそう遠くない内にお付き合いを始めて一緒にいられる時間も少なくなるだろうし。
「はむ――つめた……」
「それがいいんだよ、かき氷が温かったら嫌だよ」
流石に一度に頬張りすぎた……。
「泉もさーそろそろいい加減一回ぐらいは人のことを好きにならないとねー」
「歩ちゃんのこと好きだけど」
「同性じゃなくて異性で」
「矢後君も優しくて人として好きだけど」
「それなら彼氏――あ、だからそういうところだよ」
いつかなんとかなる、それぐらいの気持ちでいなければ潰れてしまう。
興味はある、だからといってそれだけでなんとかなるわけではないのだ。
「歩ちゃんがお手本を見せてくれたら私も頑張れるかもしれない……ね?」
「よしきた! 今月中に彼氏を作るからそうなったら発言通り泉も彼氏を作ってね!」
え、あ、え。
ばくばくばくと急いで食べきって「じゃあね!」と元気よく走っていってしまったからそれ以上はなにも言えなかった。
「あいつ、あんなことを言っている割には動かないからどうせ今回も変わらないよな」
「わ、まだいたんだ」
お友達はいない、わざわざ少し歩いた後に向こうも解散にして戻ってきたのかな?
あ、これって本当は歩ちゃんといたかったんじゃ……もしそうだったらごめんと謝るしかない。
「おう。で、諏訪はどう思う?」
「うーん、だけど歩ちゃんは私が関わっていると意地を張るときがあるから今回は変わるかも」
「あーそういえばそうか……」
彼氏さんがいる歩ちゃんかあ。
あの子のことだから周りに人がいても気にせずに甘えて朝からいちゃいちゃしていそうだ。
当然、邪魔をするわけにもいかないから一人のときを狙っていくものの、一人でいる時間が極端に少なくなってそのまま――なんてことになりかねない。
「あいつ関連のことで困ったら言えよ? 俺にできることならしてやる」
「うん、ありがとう」
「じゃ、また明日な」
「うん、ばいばい」
お店とかを見て回ってもいいけどお金もないから大人しく帰ろうか。
あとはまだ戻るけど汗が酷くなりかけているのもある、臭う状態でお店にはなるべく入りたくなかった。
「ただいま」
「おかえり」
あれ、なにか変なことが起きた。
それでも怖くて聞くこともできずにまずはお部屋にいって制服から着替える。
「泉は酷いね」
「きょ、今日はなんで?」
わざわざ追ってくるなんて……益々怖くなってしまう。
「ま、これからはこの時間になるから慣れて」
「そうなの? 私としてはお母さんといられる時間が増えるなら嬉しいからいいけど」
「じゃ、いつもみたいにご飯を作って」
「うん」
それはやるけど、うん、謎だ。
母は先に食べたがる人なのでご飯ができたらすぐに食べていた。
一人だと可哀想だから私は父が帰ってきてから一緒に食べた。
「おはようございます」
「諏訪さんは今日も早いね」
「はい、みんなが登校してくるまでのこの静かな時間が好きなんです」
偉い子はここで自習をしたりするだろうけど私の場合はただ座っているだけだから活かせているわけではなかった。
だけど先程言ったことは本当なので卒業まで続けたいと思っている。
人がいない状態でもいる状態でも涼しい場所なのがよかった。
「ばあ!」
「おはよう」
「うん、おはよ泉!」
この元気な子は春夏秋冬、どの季節でも同じように早く来て朝から明るくいてくれるから助かっている。
「あ、聞いてよ泉、今日は矢後君風邪で休みなんだって」
「え、そうなの?」
お見舞いとかいった方がいいのだろうか。
ちなみに、すぐに「今日の放課後は約束をしているから無理なんだ」と彼女が言ってきたからいく場合は一人になってしまう。
でも、聞いてしまったら気になるからいけばいいか。
「あるだろうけど冷却シートとお水は買ってきたからね」
放課後、悩むと駄目になるからささっと矢後君の家へ。
「悪いな」
「ううん、元気そうでよかったよ」
一応なにも食べていなかったときのためにうどんも買ってきたけどこの様子だといらなさそうだ。
夜ご飯のおともにしようと思う、ソースで炒めてみても美味しいから無駄にはならない。
「ああ、朝は微妙だったけどいまはもう大丈夫だ」
「歩ちゃんも心配していたからね」
あの子の方から出してきたわけだからそう言ってしまっても間違ってはいないはずだ。
というか、彼がなんらかの方法で風邪だということを伝えていなければこれもなかったわけだからいちいち言うまでもなかったのかもしれない。
「そういえばなんでか朝に来たんだよな、いつも一緒に登校しているとかでもないのに謎だったよ」
「本当はまた小学生のときみたいに一緒に登校したいのかもしれないね」
「あいつがか? ありえるかねえ」
「本当のところなんて結局本人にしか分からないからね」
あとは本人だって自分がどうしたいのか分かっていない可能性がある。
「諏訪はこの後、なにか予定がとかあるか? ないなら上がっていってくれよ、菓子ぐらいだったら礼として出すぞ」
「うん、じゃあ上がらせてもらおうかな――の前に、本当に大丈夫なんだよね?」
「ああ、大丈夫だから心配しなくていい」
それならいいか。
何十回とあるわけではないけど彼の家に上がるのはこれが初めてではないから緊張はしない。
ただ、じろじろ見るのも申し訳なくてその結果、彼をじっと見ることになってしまうのは許してほしかった。
「格好いい男子がどうちゃらこうちゃらって言っていたけど転校生でも来たのか?」
「近くのお家に格好いい男の子が引っ越してきたって言っていたよ?」
「この前の頑張る発言はそれも影響しているのか?」
うーん、だけど今日も歩ちゃんらしくいただけだけどな。
クラスにお友達が多いから積極的に出ていったりはしない、というか、そうでもなければ教室に張り付いている私は話せなくなってしまう。
「でも、見た目が整っている奴なんて既にいるのにそいつのことをあっという間に好きになったらそれはそれで面白いよな」
「もしそうなったら運命の出会いということになるね」
「運命の出会いか、諏訪にとってもそうなる可能性はあるってことだよな」
絶対ないなんて言えないからなにも答えないでおいた。
まあ、それでもやっぱり私は私を見てきているからないと思うけど。
というか、こんなので頑張るようだったら大丈夫なのかなんて真顔で聞いてしまいそうだ。
「さてと、やりたいこともやれたから帰るね」
「おう、改めてありがとな」
「うん、また明日ね」
でも、こんな中途半端な時間に帰ってどうしよう。
この前のは冗談ではなかったらしく母とはすぐに一緒にいられるだろうけどなんか帰りたい気分ではなかった。
暑くて汗をかくだけなのに公園なんかには、
「日陰でよかった」
とは思いつつもお金を使わずに時間をつぶすのならここぐらいしかないのだ。
残念ながらそこまで頑張れないタイプなので図書館で真面目にお勉強、なんて選択肢はなかった。
「隣、いいかな?」
「え、はい」
い、いたのか……それならいまの呟きも聞かれていたことになる、恥ずかしいことを言っていなくてよかったとしか、うん。
「ねえ、ここら辺って楽しい?」
「楽しいかどうかはともかく落ち着く場所ではありますね」
「それはきみが長く過ごしてきたからだよね? 他所から来た僕でも同じように感じられるようになるかな」
もしかしてこの人が歩ちゃんの言っていた人なのだろうか。
見た目は確かに整っていてどこにいくにもじろじろと見られていそうだ、特に女の子、女性からは放っておかれない存在になりそう。
だけど私は勝手にこの人がひょいひょいと躱してなにも始まらなさそうだと想像をする。
みんながみんな恋に興味があるわけではないし、そういうことが多すぎて敬遠してしまっている、なんてこともありそうだったからだ。
「根拠はないですけど大丈夫だと思います。ただ、あなた次第であることには変わりません」
「なるほどね、僕自身に受け入れるつもりがなかったらここもまた受け入れてはくれないということか、参考になったよ」
「はい」
今日は普段と違うのかやたらと落ち着く。
無料でいいのだろうかと気にしつつも結局帰ることはしないからずるい人間だ。
「おーい」
「あれ、まだ帰っていなかったんですか?」
最初といいこっそりと存在しておくのが得意なようだった。
そもそもここはそこそこ大きな公園で、なにも人がいるところを選ばなくてもまだまだベンチはあるのでそっちに座ればよかったと思う。
「さっきからずっと隣に座っていたけど……」
「もしかしてなにか言っていました?」
「いや、きみが『はい』と言ってからなにも言っていないけどなんかもうきみの中に僕の存在はなかったよね?」
「え、はい、凄く落ち着く場所を見つけてしまいましたので」
え、もしかして見た目が整っているのなら誰だって何回でも意識を向けてくると……いや違うか。
「きみってさ、友達から不思議ちゃんとか言われたこと……ない?」
「ありませんね、真面目だとはよく言われたことがあります」
「かと思えば急に自信満々だね」
え、どう言われているのかを気にしてたみたいだったから本当のところを吐いただけなのになにか勘違いをされているようだ。
「そういうことね、妹尾さんが言ってた女の子ってきみのことか」
「ああ、やっぱり歩ちゃんの近くのお家に引っ越してきた男の人だったんですね」
「なるほど、これは面白いことになりそうだ」
なんか一人で楽しそう。
でも、流石に限界が来たのか「また今度ね」と言って歩いていった。
私も流石にこれ以上は残る選択ができなくてお家に帰る。
「なるほどね、歩ちゃんに格好いい男の子が現れたんだ」
「お母さんにとってのお父さんみたいな感じだよね」
「え? いや、お父さんは格好いいとは程遠いでしょ」
「え、じゃ、じゃあなんでお父さんを選んだの?」
ああ、それには答えてくれなかった。
本当は格好良くて大好きだったのに娘には知られたくなくて違うように言うしかなかったとかなら可愛いけどどうだろうか?
「いつも泉に任せてばかりだったから少し不安だったけど大丈夫そうだね」
「うん、美味しいよ」
「……こういうときぐらいお父さんを待てばよかったか」
「はは、大好きだね」
「ま、そうでもなければとっくの昔に離婚しているでしょ、お父さんって情けないところもあるし」
娘の前では冷たくなってしまうみたいだから今度二人きりの時間を作ってあげようと決めた。
まあ、こちらが変に想像をして頑張らなくても結構遅くまで二人きりで盛り上がっているときもあるから心配する必要はないのかもしれない。
「さっきの話に戻すけど、今日その子と泉も話したんでしょ? 選ばれるのは歩ちゃんじゃなくて泉って可能性もあるわけだよね」
「はは、それは矢後君にも言われたよ」
「そういえば矢後君もいたか、これは面白くなりそうだね」
そうやって話を聞いただけですぐに盛り上がれるところは少し羨ましいところだった。
私なんて〇〇が格好いいとか可愛いとかそういう話で盛り上がられてもそういう子もいるでしょ、みたいな感想が出るだけで終わってしまうから。
本当に積極的なところを見せて私を焦らせてもらいたいところだった。
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