第37話 マーガレットはどこに

 次の日の昼休み。


 優吾はあてもなく校舎を散策していた。

 足取りはゆっくりと。でも目だけは落ち着かず、生徒たちの姿を追っていた。


 教室の前を通り過ぎるときは、さりげなく窓から中を覗く。そして、窓から目を戻すたび、肩がわずかに落ちる。

 黒髪の生徒ばかりの校舎の中で、金色はすぐに見つかるはずだった。


 やがて体育館の近くまでやってきた。すると、裏の方で金色に光る何かがあった。


 ――マーガレットがいる!


 優吾が慌てて走って裏へいくと、男子生徒が数名、狭い体育館裏でキャップ野球をしていた。突然の乱入者に、遊んでいた男子生徒の動きが止まる。


「……何か?」

「あ、いや……ごめんね、邪魔して」


 優吾は手を合わせて謝り、すぐにその場を後にした。


 再び優吾が校舎内を歩いていると、遠くから金髪の生徒がやってくるのが見えた。


 ――今度こそ……?


 だんだんと金髪の生徒が近づいてくるにつれ、優吾の足取りが重くなった。


「あ、先輩! どうしたんですか?」


 メーガンだった。同級生の友達と一緒にはしゃぎながら優吾に声をかけた。


「どうしたのメーガン、知り合い?」

「うん、部活の先輩!」

「あー! あのお昼の放送の!」

「こんな顔してたんだ! 知らなかった!」


 きゃあきゃあはしゃぐ後輩に、軽く笑みを返すと、優吾は再び歩き出した。



 ☆★☆



 放課後。

 いつものように全員が放送室に揃っていた。


「もうさ、直接先生に聞いたほうが早いんじゃね?」


 真壁が放送室の椅子にもたれながら言う。

 神野は話に入って来ず、相変わらず部屋の整理をしたり、リクエスト用紙をきれいに整理したりしている。


「ですよね。先輩がこれだけ探して見つからないってコトは、やっぱりこの高校にはいないんじゃないですか?」

 メーガンも半ば諦め顔で言う。


「そんなはずは無い。実際にこうやってマーガレットからリクエストも届いているじゃないか」


 少しだけ声が大きくなった優吾に対して、落ち着いた声で真壁が言う。


「誰かが演じている可能性は? 確か、優吾はラジオで全部暴露したんだろう?」

「暴露? 暴露ってなんですか?」


 メーガンはちょっとした言葉にもすぐに反応する。

 真壁が続ける。


「優吾さ、放送部のこととか、自分がストロベリーだってこととか、マーガレットを探しているとか、全部言っちゃってるわけ。ラジオで。だからそのラジオを聞いたこの高校の誰かがさぁ、悪ふざけしてマーガレットですとか書いて送ってんじゃねーの?」

「確かに。愉快犯ってやつですね」


 優吾は何も言い返せなかった。


 可能性もなくはないだけど、リクエスト用紙の隅に書かれていた走り書き。

「この間はありがとう。これからも投稿続けようね」

 あの走り書きは、どうしても他人のものとは思えなかった。


(あれは……僕とマーガレットしか知らないはずだ)

 それでも、校内で金髪の生徒はみつからない。


「まぁ、もしかしたらまたマーガレットからリクエストが来るかもしれないし、ただの冷やかしならこれで終わるでしょ」


 真壁の冷静な言葉に、メーガンも唇を尖らせながら言う。


「あーあ。何か素敵なyouthful daysが始まると思ったんだけどな……じゃあ私はこれで失礼しまーす」


 メーガンが金色の髪をなびかせて、放送室を出ていった。


 優吾は一瞬その後ろ姿が、以前出会ったマーガレットに重なった。

 ――まさかメーガンがマーガレット……なわけないよな。今年転校してきたって言ってたし。


 考えれば考えるほど、答えから遠ざかっていく気がしてならなかった。


「じゃあ、私も今日は帰るね」


 優吾がぴくりと顔を上げた。

 神野が一言だけ発すると、振り返ることもせず放送室から出ていった。


 カチャリ。


 いつもは気にも留めない音が、やけに大きく聞こえた気がした。

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