プロローグ

「おい、水下それなんだよ」


「北野君、冗談はよしてくれよ。君だって何度も使用したことがあるはずだ」


「俺が使うのはもう少し毒性の薄い奴だ」


N大登山サークル室。水下の手には銀色に光る白色の粉末が握られていた。


「大麻の一種だよ。これがあればイチコロさ。やってしまえば途端に脳が完全にハイになるから接種中の記憶は吹っ飛ぶようになっている」


「本当か。そいつは便利だな」


水下は粉末を一粒残らず瓶容器の中にしまい、サッと机の引き出しの中に隠した。


「それでお前は誰に決めたんだ?」


俺は舌なめずりをして水下の邪悪なまなざしを見ていた。


「僕はアカネやアイナあたりが良いかな。彼女たちは前々から狙っていたんだよね」


「しかしお前もたいそう悪いことを思いついたものだな。セックス目当てなら風俗にでも行けば良いじゃないか」


水下は失笑する。「北野君は分かっていないね」と云わんばかりに指を振った。


「風俗はリアリティに欠けるんだよ。いいかい、輪姦の醍醐味はリアリティだ。女を複数の男で共有する悦びとスリルは風俗では決して味わえない。人間というのは元来、太古の昔からそういうふうに設計されている。男という生物はそれに興奮を感じるのさ。君にだって分かるだろう?」


「フン、よくもまあそんな気色の悪い事をべらべらと喋るなぁ」


「ホモソーシャルと云う言葉を知っているか?」


「あ?なんだそれ」


「女を排除することによって生まれる、男同士の連帯感のことさ。まさに、輪姦こそ究極的なホモソーシャルだよ。君だってあるだろう、同じ男がいる空間だと、つい気分が高揚する、男と居るだけで仲間同士の絆が生まれる。まあ正直、快楽のみを求めるのなら輪姦なんてやってられない。君の云うとおり、風俗に行くべきだろう」


「気色悪い」


「で?君は誰にするのさ」


「決まっているだろう?春香だよ。二度と家に帰れなくなるまでに犯してやる」


 そう言うと北野はサッとビデオカメラを取り出した。


「撮影して脅すのかい?」


「これで警察にも親にも言えまい」


「大丈夫さ。そんな手の込んだ事をしようがしまいが絶対にバレないよ。現に今まで一度もバレなかったじゃないか」


「まあな。念には念をだ。俺は用心深いからな」

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