#02-3 救いを求める手はたくさんあるのに
☆
コンコンコン。
ノックのあった扉……つまり聖堂側の扉が開かれると、そこにはマリーの姿がありました。
「おはようございます、マリー」
「おはよう、ミレン。……えっと……?」
わたしの
説明を求める、ということでしょう。
「依頼、です」
続けて簡易的な朝の祈りをお互いにかわしてから、そのままマリーを室内へ案内しますと、彼女もその意味を察したのか。室内へ入ると、後ろ手に扉をすっと閉めてから改めてこちらに視線を向けます。
それを確認し、わたしは昨晩の事を話し始めました。
ひと通り説明を聞いたマリーはため息ひとつ。
「いつ、
依頼を受けるのか否か、を問うのではなく、受けた前提で話し始めるマリー。
真剣な目で問うてくれているので勿論わたしもその通りに返すわけですが。マリーはわたしのことをよくわかっているなぁなどと、感心半分、嬉しさ半分。あ、でも、気恥ずかしさも少し。……うーん、割合を間違えました。
いやいや、と思わず自分を
真っ直ぐマリーの顔を見て。
「可能なら、
マリーから返される、真っ直ぐな視線。
わずかな無言。そして、小さな溜息。
「眠気は?」
「問題ありません」
「目的地は?」
「すぐ南方、国境沿いです。なので問題ありません」
「ん。ならオッケイ」
「ふふ。マリーならきっと、わかってくれていると思っていました」
やれやれ、と。
納得いってないけど、納得した。そんな感じでしょうか。
「……こんな小さな
しかしこちらにも言い分はあります。
「それを
エミィの
そんな姿が、素直に愛おしいと感じます。
「……ま、出来ないわよねぇ……」
マリーも同じ結論に至ったようで何よりです。
「とはいえ……」
不意に、ポツリと。
「言いたくはないけど。……良くある話、だわね」
感情を殺したような声で放たれた言葉。
「……哀しいことですが」
わたしには、苦く笑って返すことしかできません。
目を伏せ、思います。
子を想い、大切に
良くある話。
その一言で切って捨てられるほど、ありふれたお話でしかないという事実は。
その思いが、少し過去の記憶を呼び覚ますのです。
どうしようも……なかったのだ、と。
「ごめん」
不意にかけられた声に顔をあげれば。「言い過ぎた」
マリーに浮かんだ何とも複雑な
一瞬、考えて。
……それがなんだか
「今のを、言い過ぎと表現しますか」
笑いがこぼれてしまいました。
対するマリーは、さっきの複雑な顔を、更にくしゃっと
「そんな、うまく
「それを言うなら今のあんたは、『紗のベールをまとう宮廷婦人』みたいな表情してんのよ」
ちょっとむくれて言い返すマリーですが、むしろその顔が可愛いと思ってしまって、わたしの笑顔は濃くなるばかりです。
『紗のベールをまとう宮廷婦人』とは、たしか西王国の宮殿に飾られているという絵でしたでしょうか。見方によってその表情が、様々な感情に読み取れるのだとか。
「残念ですけど、わたしはその絵を直接見たことがないので、共感できないです」
話には聞こえてきますが、他国の宮殿に
「ふん……」
そんなわたしに不満そうなマリーでしたが、少し
ひとしきり笑いあってから、膝の上にエミィがいたことを思い出して、ドキッとしましたが。
それでも目を覚まさなかったことに安心しつつ、膝からそっと、ベッド(と言っても、
むしろこれだけ周りが騒がしくても、体を動かされても、目を覚まさないほど疲労が溜まっていたのでしょうかと不安もあって。
「救いを求める手はたくさんあるのに、実際にその手を握り返すことが出来る手は、ほんのわずかだけ、なんですよね……」
わたし自身が一人
「とはいえ、救える手だけでも救うというのはひとつの考え方よ。少なくとも、その握った手の数だけは救うことが出来た。そう思わないとやっていけないわ」
だから、でしょうか。
おおよそ独り言に過ぎないようなつぶやきに、言葉を返して貰えたこと、に対して、ビクリとしてしまったのは。
「……そうじゃない?」
射抜くような視線。
その意味を考えて。
その
……嬉しいと、思ったので。
「……そう、ですね」
笑顔で、返しました。
少しの沈黙の後に。
「……修道院長への伝達は、お任せしても?」
「お任せされましたわ、ミレンさん」
「お願いします。……あとは、これを」
「……これは、
少し涙で湿っているハンカチをマリーに
「彼女が目覚めた時に、不安になってはいけませんから」
「ああ、そういうこと」
察してくれたようです。
そうして少しの沈黙が場におりますと。
カン……カン……カン……。
静寂に包まれる院内に、目覚めを知らせる鐘の音が響きわたりました。
さて……と。
わたしが椅子から立ち上がると、マリーもまた立ち上がります。
どちらとも無く手を伸ばし、握り合い。
「では。行ってきます、マリー」
「ええ、行ってらっしゃい、ミレン」
声を掛け合い、そして笑い合いますと。
まだまだ世界は夜の闇に包まれている中(修道院の朝は早いのです)。
わたしは
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