第18話 それぞれの捜索
「じゃあみんな、城の中には危険があるかもしれない。だから警戒を怠らないでくれ」
朝早くに起床したグレイたちは早々に朝食を食べ、目の前にある城を探索しようとしていた。城以外にも、少し降りた場所に広がる街の探索も必要という案が出たためそっちも探索をすることになった。
「俺とフィオナ、それにメジロさんの三人で城を探索する。ローズとジェイミー、ノアが街の探索。マロンが留守番だ」
昨日、決めた探索する場所の役割をもう一度確認する。
「では、皆さんお気をつけて」
留守番をするマロンが、街の方へ向かった三人に向けて言う。グレイたちは三人とは逆方向の城の方へと向かっていく。
「あれ?」
昨日は固く閉ざされていた城門が今日は少し触るだけで開いた。
「私たちを歓迎してるのか、誘っているのか」
「ここには危険がたくさん潜んでいるのかもしれないですね」
フィオナの言う通り、今の状況から察するに危険が潜んでいるのは間違いないだろう。左右に分かれた階段を登り、グレイたちは大きな城の扉の前に立った。
「じゃあ、開けますよ」
木製の大きな扉を力一杯押し開く。すると、中からは美しい城の内観が露わになった。前方には大階段が設置されており、そのまま二階に広がっている。今グレイたちがいるロビーには上へ続く階段、それに右奥にある地下へ続く階段しかないため、二階へといく。
「中の手入れがしっかりしてるって事は……」
「誰かがいるって事ですね」
メジロさんが窓際を人差しでツーッと触りゴミの有無を確かめてからそう言う。三人の中で一気に緊張感が走り体が締め付けられていくように感じた。二階には大広間が広がっており、さらに上へと続く階段がある。広間には左右に二つずつ扉があり、天井に設置される大きなシャンデリアが大広間の明るさを供給している。
「この城はとてつもなく大きいと思うので、手分けをして探しましょう」
外から見た時もそうだったが、実際に中に入ると更にこの城は大きいと感じた。ここにいるのはあくまでも全員が特待生だ。何かあったとしても、切り抜けられる力は持っているはず。
「そうね、じゃあそれぞれどこを探す?」
「じゃあ私、別棟がいいです!」
フィオナがまず手を挙げて元気よく答えた。
「なら、俺はここよりも上を担当します」
「これで決まりね」
メジロさんがそう言うとフィオナはポケットを弄り、見覚えのあるものを渡してきた。それはグレイが作った魔封石だった。
「光しか出す事はできませんが、お互いに何かあったらこれで連絡を取り合ってください」
グレイとメジロさんに一つずつ魔封石を渡してきた。
「夕暮れまでにロビーに集合という事で」
グレイは二人に言うと、三階へと続く階段を登っていった。
——九時三一分、本城一階にて
グレイ達と別れ、地下へと続く薄暗い螺旋状階段を降りるのはセツシート大学特待生、メジロ・ユイだ。階段を下がっていくに連れて、先ほどまでついていた明かりがどんどんとあり暗くなっていった。
「気味が悪いし、早く終わらせましょうか」
右手に炎魔法の応用を使い、辺りを照らす光源を作り出そうとした。が、炎魔法はどこかへ吸い取られるように消えていった。いくら剣技部門の特待生だからといってメジロさんも魔法が使えないというわけではない。
「何なのよ……」
代わりに先ほどフィオナに貰った魔封石を触り光源として使う。ようやく地下へ続く螺旋階段が終わったかと思い前を見てみる。そこには、古代の先人が作ったダンジョンにあったような牢屋がたくさん設置されていた。
一言で表すとすれば、気味が悪い。何の用途で使われていたかなんて、想像をするのも嫌なくらいだ。身を縮こませながら歩いていたら。
「きゃっ‼︎」
地面がバキッという木が割れる音と共に体が垂直に地下から地下へと落下した。
「こういうの本当に苦手なのに……とにかく今は上に戻らないと」
自分の落ちていた所の上を眺めてみるが、とてもじゃないが手の届くような高さではなかった。辺りには未だに牢屋が続いているが先ほどとは打って変わった景色だ。この空間全体には汚水が広がり、牢屋の中にはたまに、手を鎖で繋がれた死人の姿があった。
「酷い臭い……」
手を鎖で繋がれた人と地面に広がる汚水のせいで鼻が曲がるほどの汚臭が立ち込める。そんな時に、奥から声が聞こえてきた。
「ったく、何で私たちがこんなとこを見回りしなきゃいけないんだよ」
「マヨルダ様の命令は絶対。忠実なるメランダ様の僕としての責務を果たすためよ」
「ここはあなた一人でだって出来るでしょ」
「ちょっと待ちなさいよ!」
地下にそんな甲高い声が響く。
「マズいわね、あいつらに見つからないようにここを出ないと」
そんな時にフィオナから貰った魔封石の存在に気づき、メジロさんは懐からその魔封石を取り出す。
「嘘でしょ……」
先ほど、ここは落下した時の衝撃で魔封石は真っ二つに割れていた。
「嘘でしょ…こっちには来ないでよ……」
小さく声に出して、探索を再開した。
——九時三六分、本城庭園にて
「寒っ!」
城の外に出て庭を歩いていた時に自然と口から出た言葉はそれだった。フィオナは手で腕を触りながら庭をどんどんと歩いていく城の庭園は意外にも手入れが行き届いた。所々に咲いている真っ赤な薔薇の花が真緑の植物に彩りを与えている。
「いやはや、メランダ様は相変わらず怖いの」
城の外観を眺めながら歩いていると目の前にある小さな扉が不意に開いた。反射的に近くにある木々の中にすっと隠れる。
「俺のかわいい子にご飯をあげないといけないな」
城の扉を閉じて別館の方へ向かおうとした時初めてその声の主を見ることができた。それは、人というにはあまりにも無理がある者で全身を黒いローブで隠し、膝下くらいまでしかない身長だった。そして、なぜか四足で歩行しており、その見た目で人間と同じ言語を話している。
「なんなのあれ…」
ボソッと呟きながら黒いローブの男が去るのを待った。
——九時三六分、本城三階廊下にて
グレイはまず、三階の左側から続く廊下の一番奥の部屋から捜索を始めた。
「会議室か?」
長細い部屋に長方形の形をするようにテーブルと椅子が置かれている。少し部屋の中を見たが、何も無かったため次の部屋に行こうとドアノブを触ろうとした瞬間、ドアが開いた。
「全く、何も言うことを聞かない奴らだ」
最初はうまいこと開いたドアの後ろに隠れ、するとドアが閉まると近くのプランターに身を隠す。そこからバレないようにこっそりと入ってきた人物の方を監視する。
「毎回、単純作業は疲れるな……」
身長は大体二メートルほどある大きな女性が会議室の壁に掛けてある絵画を触っている。直後、絵画の横の壁が重々しい音を立てて重そうにスライドした。
「遅かったか……」
大きな女性が入っていった壁に急いで手を伸ばしたが壁は一瞬で閉まり当然、間に合うこともなかった。先ほど女性がやっていたように絵画を触ってみるが、何かが起こることは無かった。
「見つかったら、殺されるな」
遠くからでも伝わってくる女性の殺気。それを感じ取ったグレイは今より、さらに慎重に城の捜索をすることにした。
——九時二六分、東側集落にて
ローズ、ジェイミー、ノアの三人はかなり街の奥まで歩いてきたが何かが見つかることはなかった。すると、目の前の道からカランカラン、と缶が転がってきた。
「みなさんこっちへ!」
ノアが危険を察知し、近くの家の中に入り手招きをする。ローズとジェイミーの二人もノアの指示に従い、家の中に身を隠す。
「あのクソババアがッ! どれだけ俺たちに言えば済むんだ!」
三人はドアが空いていた家の窓ガラスからこっそりと外の様子を伺う。黒色のロングコートを着て、黒いサングラスのようなものをつけている渋面の男がいる。
「何で俺がここに来た奴をブッ殺さないといけないんだよ」
その言葉を聞いて三人は絶句した。自分たちは命を狙われている。男が歩いていった後も三人の沈黙は続いていたが、ノアがその沈黙を破った。
「とりあえず、ここにはまだ私たちを探している奴がいるかもしれない。でもここには帰るための手段があるかもしれないから、帰るわけにはいかないわ。だから、みなさんは今よりも注意を払って行動してください」
「「はい」」
ローズとジェイミーは小声で返事をすると先ほどの男とは真逆の方向へと歩き探索を再開した。
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