海底都市編

第17話 再開

 グレイは目の前に広がる真っ青な景色を見て絶望感を覚えた。


「未来の次は海………」


 海の中とは言ったものの、天井は大きな結界によって守られている。天井がドーム状に覆われている結界を見て、メジロさんはすごく感心していた。


「こんなすごい大結界見たことないわ……」


「ここってどこなんでしょうね」


 グレイは隣にいるメジロさんの方を見ながら聞く。


「あぁっ!」


 突然、グレイの視界がぐにゃりと曲がり誰かの声が聞こえてきた。

——こんな生活がいつまでも続けばいいね……

——みんな逃げるんだ! 早く!

——神よ! 私たちが何をしたというのか……


「グレイ?大丈夫なの」


 メジロさんがフラフラしているグレイの肩に手を回す。倒れそうになっているグレイをメジロさんは支えてくれた。


「さっきのは一体……?」


 針で頭を刺された時のような激しい痛み。そこに混ざり合う幻聴。


「まずはここから離れましょう」


「そうですね……って、これ」


 メジロさんに肩を持ってもらいながら、歩こうとしたその時。足元でカシャンという変な音がしたことか気がつく。


「剣ですね」


「しかも、二人分……」


 黒い鞘に収められていた剣が二つ地面に置かれていたのだ。グレイは落ちている剣を見て、どうしようかと一瞬考えた。どちらも同じ形をしていたからである。


「落ちている物は貰っていいってことでしょ。それに私の専門、剣技だし」


 そう言いながらメジロさんは腰をかがめて地面に落ちている剣に手を伸ばす。右手が剣に触った刹那、メジロさんも頭を抱えて悶えた。


「んあっ……!」


「メジロさん!?」


 地面に倒れたメジロさんを見てすぐに助けにいく。メジロさんの顔色は一瞬にして悪くなり真っ青になっていた。数秒か経つとメジロさんの顔色は元通りになり、それを見てグレイは少しだけ安心する。


「メジロさんもですか?」


「えぇ、おそらくね。こんなのが続いていたら大変だから、一刻も早くどうにかしないとね」


「じゃあ、とりあえずあそこに行きましょうか」


 グレイが指差したのはこの海底で最も目立っているともいえる城だ。そうね、とメジロさんは頷いて少し顔色を悪くしながらも前を歩いていった。グレイはメジロさんが拾わなかったもう一方の剣を手に取りメジロさんについていく。不思議なことにグレイの場合、剣に触ってもメジロさんの様に何かが起こることはなかった。


「ここってさっきいた場所みたいな未来なんでしょうかね。あるいは過去とか現代にいる可能性もありますが」


「うーん、どうなんでしょうね」


 もう未来から現代に帰ってきていて欲しいが、どうなんだろうか。大翔とクレアは去り際にほとんど何も言ってくれなかったため、状況の判断が非常に難しい。


「ここが正門ね」


 そうこうしているうちにグレイたちは目指していた城の前まで来ていた。城の門は鉄格子のようになっていて、普通に開けようと思って開くようなものではなさそうだった。


「ねぇ、あそこに誰かいない?」


 メジロさんはそう言って城の柵の外にある森の方を指差した。よく目を凝らしてみると、森や木々の間から確かに誰かがいるのが見える。恐る恐る、そこにいる人の元へと気づかれないようにゆっくりと近づく。ようやく、姿を視認できるようになった時。


「えっ……!?」


 そこにいた人物を見てグレイは衝撃を受けた。大きく声を上げ、口を開けたままグレイはその場で固まってしまう。グレイの声を聞いてそこにいた人は一斉にこちらを見る。


「兄さん!?」


 そこまで日時は立っていないのに懐かしさを覚える声が耳に入ってきた。フィオナもグレイを見た時、一瞬疑いの目を向けたがすぐに目の前にいるのがグレイ本人と気がついたようだ。グレイの方へと走ってきたフィオナはすぐに手を大きく広げて抱きついてきた。


「兄さん……どごにいっでだんですか……本当に、ほんとうに心配したんですよ!」


 フィオナの声はすごく震えていて泣いていた。


「大丈夫だ。兄さんはここにいるから……」


 グレイに抱きついてくるフィオナに、手を回して二人で抱き合う。フィオナの後頭部をぽんぽんと優しく叩き安心させる。目の前に妹がいることに安心したからか、俺の体には疲れが一気にドッと、のしかかってきた。数秒してグレイとフィオナは抱きつくのをやめ、彼女に最大の疑問をぶつける。


「フィオナは、こんなところで何をしてるんだ?」


「色々あって。もうすぐ夕食なのでその時にお話ししますね。こっちです」


 そうフィオナは言うとグレイの手を取り、後ろにある二本の木の間に立った。木と木の間へ魔力を流すと何もないところから急にテントが現れた。


「幻影魔法か……」


 幻影魔法とは俺とフィオナが実技試験で、寝床を確保する時にお世話になった魔法だ。あの時は結界札の力を借りていたが、今回は単純な魔力で幻影魔法を実現させている。


「おかえっり……?」


 テントの中に入ると、ローズやジェイミーが俺たちの方を見た。


「えっ……グレイに、そっちはメジロさん?」


「フィオナ、本当にここにいたんだ」


 そこまで言うとすぐにフィオナは二人の方をと行き、何かを聞いている様子だった。耳元でコソコソとグレイたちには聞こえない声量で何かを伝える。


「そんなことがあったんだ……あっ!まずは、こっちに座ってください」


 ジェイミーに招かれてグレイとメジロさんはテント中央のテーブルに着席する。


「ノアさんとマロンさんはもう少しで来ると思います」


 ローズは料理の乗った皿をテーブルに置きながら言った。テーブルの上に乗った料理を見るとグレイは一目散に自分の皿に料理を移す。


「すみません、もう何日か食べてなかったので」


 思い返してみれば、この何日か食事のことなんて気にしている暇はなかった。ここにフィオナたちがいなかったならどうなっていたことだろう。


「ただいま戻りま…した……?」


 テントの入り口から久方ぶりに思える懐かしい声が聞こえてきた。


「マロン、どうしたの、よ……」


 続いて後ろからもそんな声が聞こえてきた。テントの入り口で止まっている二人の方を見てグレイは喋りかける。


「マロン、ノア、心配かけてごめんな」


「グレイ様!」


 大きく声を上げたマロンはグレイの方へと抱きついてきた。涙がこぼれ落ちているのが見えたため、無理に引き離そうとするのはやめておく。


「マロンは泣き虫だな」


「だって、だって……もう会えないかと思ったんですよ……!」


 こうやって抱きつかれると、ついついクレアのことを思い出してしまう。あの出来事と今回で分かったことだが、俺はこういった過度な身体的な接触に弱いみたいだ。


「グレイ様、失礼しました」


 ようやく、落ち着いたのかマロンはグレイの方を向いて謝る。別に謝る必要なんてないのにな、と思っていると二人は奥の方へとそそくさと消えていった。その後、すぐにグレイたちの方へ二人は帰ってきてテーブルの椅子に座った。



「——そんな事があったんですか」


 グレイとメジロさんが最初に今までどこにいて、どんな事があったのかというのを話した。

 未来のセツシートのこと。古代の先人のこと。その他諸々、詳細に話した。グレイたちが話した後は、フィオナ達がどうしてたのかを聞いた。まず、高学年進級試験は無事に合格をしていたこと。もしも、特待生を剥奪されていたら、なんて考えたがそんな事は無かった。

 次にグレイたちを探そうとした時にローズとジェイミーの二人に瞬間移動と獄シリーズを教えたということ。これがフィオナからの報告で一番驚いたかもしれない。一日や二日で獄シリーズはまだしも、瞬間移動をほとんどマスターするなんてありえなかったからだ。地道な努力と魔法の才能が身を結んだのだろう。

 最後に禁忌魔法陣に乗ってここへ飛ばされたことを話した。元々、ここに禁忌魔法陣があって俺たちがいるという目星はついていたから慌てる事はなかったと言っていた。ところがどれだけ探してもグレイたちが見つからないため途方に暮れていたらしい。絶望の淵に暮れていた所、ちょうどグレイたちが現れたらしい。

 正直、禁忌魔法陣という言葉がフィオナたちの口から出てきたことは驚いた。

それにここに禁忌魔法陣があるという事を確認するその探知能力には頭が上がらない。


「今度の禁忌魔法陣はちゃんと乗れたんですね」


「うーん。多分だけど、魔法陣の対象が違うんじゃないかしら」


 グレイは魔法陣のことは全くと言っていいほど、知識がない。しかし、メジロさんの言った対象という言葉から推測する。


「つまり、禁忌魔法陣と普通の転移魔法陣で飛ばす人が違うっていう事ですか?」


「そうね、なんで私たちの時だけ禁忌魔法陣が起動したのかは分からないのだけど」


「こればかりは、海斗とクレアに聞かないと分かりませんね」


 グレイが疲れ果てて、ため息をつきながら言うとメジロさんが目つきを悪くする。


「クレアはダメ……」


「どうしてです?」


「その……、理由は聞かないで」


「ん?」


 いつもと違いよく分からない返事をしてくるメジロさんに疑問を抱きつつ、次の論点に移行した。


「明日からどうしますか?」


「とりあえず、あの城を触り程度で探索しましょう」


 メジロさんの言葉に全員が頷き、今日の話し合いは終わった。

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