第22話 終わりの始まり

 「やぁ!実だよ!って言っても聞こえないか」


 今、私がいるところは家だ。

 明かりもつけずに真っ暗な部屋で少し高い椅子にポツンと座っている。

 なんで真っ暗にしているかというと、今から占いをするから。暗くする方が明らかに見やすさが違うのでこうしている。


 「さぁどうなるのかな?」


 両手を水晶玉に近づけて力を込めると、光だし何かの映像が映し出される。

 これは未来を見る占いであって信頼度も高い。

 一体誰のを見ているというと最近のお気に入りの少年__光圀だ。


 彼の未来は見ていて本当に楽しい。

 波乱万丈な彼の人生は一体どうなるのか?そしてそんな彼の2学期はどうなるのか?

 これを見るのが今の生きがいと言っても過言ではない。


 今見ている感じでいれば__節目に近づく所といったところかな。

 2学期は彼の周りに大きな変化が起きる。そして長い期間悩む。


 ラッキーアイテムは砂かな。


 やっぱり面白いな。

 私からと言えることは2学期はエピローグになるといった所。


 「さぁ光圀、どう立ち向かうのかな?」


 不敵な笑みが部屋中に響き渡る。

 明日は九月一日だ。

 運命にまた一歩近づく日。



 ☆★☆★



 「おーー光圀__ってどうした!カツアゲでもされたのか!!」


 「いや、違う」


 俺は頭にグルグルと包帯を巻き、手や足などには無数の絆創膏が貼られていた。

 原因はというと……まぁ自業自得だ。

 今日は始業式で心機一転しようと思ったのだがそれよりも先に物理的、心機一転したようだ。


 ある意味心変わりはしたけど。


 「まぁ色々あったんだよ……」


 「そうか……それは大変だったな」


 絆も何か察したようでこれ以上追求するのはやめたらしい。

 俺としても妹にやられましたなんて言いたくないのでありがたい。


 「そう言えば、彼女さんとはどうなっているの?」


 絆は俺より先に絶世の美女とこの夏、付き合いだした。

 理由は助けてもらったからという漫画などでありがちな恋の落ち方で、その彼女は夢奈と同じ中学でもある。

 海で会って以来、どうなったのか気になっていたところだ。


 「順調だよ。この前も水族館デートしたし!」


 「クソ!」


 「何か言ったか?」


 「いやなにも……」


 俺の淡い期待も外れ、絆は順風満帆な恋を送っているらしい。

 羨ましい思いもあるが、よくよく考えてみたら俺も人のことはあまり言えないなと思う。

 彼女はいなくても色々あったし。


 「そういや、今日は占いの日ではないか?お前配らなくていいのか?」


 「えっ!ほ、本当だ!」。


 始業式に関わらず今日は占い部は活動日。

 これは野球部などの普段から部活で忙しい人のために夜月が考えたことで、始業式は運動部でも休みなところを逆手に取り、より多くの人に占いをしてもらうことがもくろみである。


 俺は占い師ではないので占い券の配布などの雑用を任されており、昼休みに配らなければいけなかった。

 そのことを忘れていた俺は急いでリュックを背負い出ていく。



 何とか昼休憩中に配ることに成功し、後は放課後を待つだけだった。

 相変わらずの人気で俺が配り始めるとほんの数分で完売。

 今日も人気のない自販機の横でいたはずなのにもしかしてあらかじめ出現場所を予測されているみたいだった。


 とりあえず仕事はこなしたので一安心し、廊下をブラブラと歩いていると向かい側から一人の生徒がやってきた。


 オレンジ色のボブヘアー、つぶらな瞳をしている女の子。

 まさか、ボランティア活動以来の再開だ。


 「やーやー元気かい光圀君?」


 「久しぶりですね。ご無沙汰しております」


 「固いな。まぁでもそんなことより私との約束守ってくれている?」


 「守っていますよ。まだ誰にも言ってません」


 「良かった!」


 約束とは実の存在を鈴美に言わないこと。

 鈴美とは姉妹だと自称しているのだが、鈴美や玖瑠実ちゃんの口からこの子の話が一度も出たことがない。


 前々から怪しいと思い探りを入れたこともあったけど詳細は掴めなかった。


 「で、実さんは一体何者なんですか?」


 「私はね…………鈴美の妹だよ」


 「噓ですよね!」


 「侵害だな。まぁ私のことはほっておいて男嫌い直った?」


 話をそらされてしまう。

 これはなにか裏がありそうで増々怪しい。

 そもそも姉妹なのに関わらず、姉には言うなっていう時点で怪しいのだがその時の俺は混乱していたのだろう。


 しかし、今日は闇暴きをしてやる。


 「話をそらさないでください!」


 「おー今日はやけに感情的だね。分かった分かったよ」


 「本当のこと話してくれるんですね」


 「そうだなー。全部は言えないけど一言でいうとしたら__元凶かな」


 意味の分からない返答がきた。

 元凶?一体何を言っているのだ?

 実の顔を見る限り、これは噓のように聞こえない。

 それが余計に混乱を招く。


 「もう、意味が……」


 突然、俺の頬っぺたに柔らかい感触が伝わる。

 斜めで話していた実が真横にいた。


 これはもしかして……キスされた!


 「お、い、これって……」


 「感謝の印だよ。じゃあまたね」


 「待て!」


 俺の叫びでは止まらず、風来坊のようにどこかに姿を消した。

 結局、またもや詳細は掴めなかった。


 ふと、気づけば昼休みも終わりの時刻差し掛かり帰ろうとして歩き出す。

 そうして歩き始めて間もなく、俺の胸ポケットに小さくおりたたまれた紙切れがあることに気が付いた。

 さっきまで何も入ってなかったはずなので、実の仕業だろう。


 その紙を見ると読めるには読めるのだが、意味が全く分からないことが書かれていた。


 「3つの鍵が開くとき、災い訪れる。輪が乱れ、ありかもなくなる。キーマンは3つの栗の心。                 素直に。 By 実」


 うん。何回考えても理解不能だ。


 今考えても分からないので再びポケットに直そうとした折りたたんだ時、裏にも何か書かれていた。

 これも本当に意味が分からず、助けて過去__むすぷいたっりと書かれていた。


 「おい、暗号みたいな俺苦手なんだけどな」


 頭をかき、また少し考えてみたが時間制限がきてしまう。

 予鈴のチャイムが鳴り、強制終了。

 後で誰かに聞こうとするのだった。



 ☆★☆★



 「次の方、こちらに並んでください」


 さすが占い部。今日も大盛況で雑用の俺は大忙し。

 生徒の誘導や占い券の回収など一人にしては重労働すぎる。


 いつもより占い券は多く配布したのでわかってはいたが、いざ実際にやってみると無茶でしかない。どれぐらいかといえばベンチのいないバスケの試合ぐらい。


 「なんでーーーーーーー!」


 突然、高らかと女性の声が聞こえる。

 声の方角的に夢奈が占っている方から。

 一体何が起こったのか、急いでみていると不満そうな顔を浮かべた生徒と絶望を味わったような姿をしている夢奈がいた。


 誘導している時に思ったのだが夢奈の列は夜月達より明らかに進みが遅かったことを思い出す。忙しくて見に行ける暇もなかったが、もしやそのことが関連しているのか。


 「どうした夢奈?大丈夫か?」

 

 「占いが……できなくなった……」


 これには俺も思考が完全に停止し、その場でかたまってしまう。

 

 「どうしたの!夢奈!」


 夢奈の叫び声に反応して、他の部屋で占いをしていた夜月や鈴美も駆け付けた。

 事情を話すと、何なら鈴美にも違和感があったらしい。


 「私も今日中々上手く占いができなくて……いつもより疲れやすさとか見えやすが違って……」


 「そうか……でもとにかく今は人を多く待たせてもいる」


 我を取り戻した俺は周りの状況を見て、みんな不安そうにこちらを眺めている。

 事を大きくしない為にもここは手が一つしかない。


 「すまないけど、鈴美と夜月には夢奈の分の生徒も占ってほしい。そしてこのことは終わってからじっくり考えよう」


 「分かった!」


 「分かった……」


 バイトで養った臨機応変力がここで役に立つ。

 今はとにかく夢奈を休ませて、二人には負担かけるのがよいと判断した。


 それにしても今日は頭がパンクしそう。

 

 俺は夢奈を部室の端で休ませてから雑用に戻る。



 「ありがとうございました」


 今日の分の占いが終わった。

 一安心もあるが、ここでまた悲報があり鈴美も途中で完全に占いができなくなってしまう。


 残り数人だったおかげで夜月が占ってくれたのだがこれ以降の活動はできるか怪しいところまできてしまった。


 「これから、どうしましょうか?」


 空気は最悪。

 俺と夜月は疲労で夢奈と鈴美は占いができなくなったせいで心にキズが。

 正直言って、こんな状態でまともな解決策が出るはずがない。

 だからといって、何もしないわけにもいかないのが悩みでもあるが。


 「鈴美、原因分かるか?占いができなくなった?」


 「分からない……急にこうなった……」


 「そうか……なぁ夜月、運動みたいにしばらくの間してなかったら衰えるとかないのか?」


 「それはないと思う。今まで長期間やってなかったこともあったけど一度もなかった」


 「まじか……」

 

 占いに関して初心者の俺がいくら考えも分かることは少ない。

 ここはやはりあの人に頼るしか。


 「夜月、疲れているところすまないけど、師匠のもとへ行こう」


 「分かった」


 こいつらに占いを教えた張本人なら、絶対手掛かりがあるはず。

 一人では心細いので、夜月についてきてもらい向かった。



 「おい、これって」


 黒いオーラが漂う不気味な家。

 いかにも近づきにくい建物__それこそが師匠ハウスだ。

 ここは怖くて一人では来れないため、夜月についてきてもらい鈴美と夢奈には帰ってもらった。


 そんな怖い所に来るのも実に4回目なのだが、今日はいつもと違うところがあった。

 玄関の所に貼り紙があり、ずっと鍵を開けぱなっしだった引き戸には鍵がかかっている。


 そして貼り紙にはこう書かれていた。


 「旅に出ます。わしの人生はそう長くないと思うので最後に旅をしたっかったのじゃ。いつ帰るかは未定じゃ」


 なんで必要な時に旅に出るんだ。

 もともと訳の分からない人物ではあったが、少し慣れた今も全く理解に及ばない。

 旅に出るのは勝手にしてくれてもいいけど、何か一言あって欲しかったな。


 「師匠……もう先が長くないのね」


 一人は目的を忘れて悲しんでいるが……。


 それにしても今日は不思議な点が多いな。


 実の再開。

 夢奈が占いができなくなる。

 師匠は旅に出る。


 つながりはしないのだが、これは何かある気がする。

 仕方ない……時間かけるか……

 


 

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