第54話 助けに来たよ

「このタイミングで闇落ち!?」



 向き合いたくない事実に直面して、暴走状態に等しい闇落ち形態への移行。アマテラスの衣装や表情は好みではあったが、そのパワーは想定外。

 僕が目を離した隙に、『改造人間』第七号『ボス』が倒されるのも予想していなかった。



 魔法少女に闇落ちは付き物であり、それが推しのであれば一ファンとしては歓迎すべきことなのかもしれない。

 けれど、本当にタイミングが悪い。それに残った手駒まで持って行かれてしまった。



 ここから、どのように動けば最低限の目的を達成することが――アマテラスをお持ち帰りをすることができるだろうか。



 一人で唸っていても、当然答えは天から降ってこない。非情な現実に打ちひしがれていると――。



「――アリサちゃんを、フラン・・・を助けてあげないと」



 ――アマテラスの声が届いた気がした。



 いや、そんなはずはない。あの場を監視していた『シャドウ』さんの分体は、本体の消失とともにいなくなっていて、離れた場所にいるアマテラスの声が聞こえる訳がなかった。



 もしかしたら、暴走状態闇落ち形態のアマテラスの膨大な魔力のせいで、辺りの空間が不安定になってしまったのだろうか。

 それとも、想定外の事態の連続で気が狂ってしまった僕の幻聴かもしれない。むしろ、その可能性が一番高い。



 念の為に、辺りをキョロキョロと見渡してみるが当然アマテラスの姿はない。であるならば、さっきのは幻聴であると考えるべきだ。

 しかし、僕には不思議と本物のアマテラスの声に感じられた。



 たとえ先ほどの声が、何かの奇跡で離れた場所にいるアマテラスの声が届いたものであったとしても、今のアマテラスは絶賛暴走状態闇落ち形態

 狂気に振り回された故の発言の可能性もある。



 だが、アマテラスは僕がこの世界で初めて出会えた、本物の魔法少女。

 そういえば最初に会った時も、僕に向かって「絶対に助けてあげる」と言ってくれた。

 実際に、僕ではないが同じような立場の――あくまでもアマテラス視点では――ウィッチを二度に渡って救っている。



 もしも、もしもだが。とっくに解けたと思っていた僕が哀れな被害者であるという勘違い・・・・・・・・・・・・・・・・・が続いていて、それに基づいた発言だとすれば。



 何て、素晴らしいのだろうか。



 そのアマテラスの勘違いを利用させてもらうとしよう。

 仮定に仮定を重ねた上での作戦とも呼べない思いつきではあるが、今の僕にはそれ以上の考えが出そうにもない。



 あの暴走状態闇落ち形態のアマテラスと、『改造』済みの僕が正面から戦っても勝てはするだろうが、時間はかかり過ぎてしまう。

 それは今の状況では望ましくない。



 だったら、どんな策を弄しても短期決戦を仕掛けるのが得策だ。



「――僕も待っているからね、アマテラス。君と僕の最後の戦いになると思うよ」



 僕の独り言は、誰にも聞かれることはなく静かに消えていった。





 ――私の恩人と同じ姿をしていた偽物・・の体の斬り刻んでいた手を止める。



「ようやく邪魔な……私の大切な思い出を汚す人は消えた」



 もう目の前の肉塊が、私を惑わすような不快な言葉を吐くことはない。思考にも多少の余裕ができた。



「……あれ? そういえば、私って何の為にこんな所にいるのかな?」



 しばらくウンウンと唸りながら考えていたが、何も思い出せない。



「まあ、いいか! 偶にはこういうこともあるでしょう」



 何故こんな場所にいるのかは分からないが、何となく誰かを探しに来たような気がする。



「――アリサちゃんを、フラン・・・を助けてあげないと」



 無意識の内に、その誰かの名前を口にしていた。



 恐らく目的はその子達を探しに来たのだろう。そうと決まれば、話は早い。

 多分、少し離れた場所から感じられる魔力の持ち主が、目的の子達のどちらかであると当たりをつける。



 肉塊を無視して、私は通路を進んで行く。



 遠くで激しい戦闘音が聞こえるが、そっちの方に用はない。



 どれくらい歩き続けただろうか。



 私には馴染みがあまりないが、ゲームで言えばラスボスが待ち受けていそうな広い部屋にたどり着く。



 そこにいたのは、その華奢な体には不釣り合いな玉座に腰をかけている、白衣を着た少女だった。

 少女の姿を視界に収めた私は、ゆっくりと近づき彼女が安心できるように言葉を紡ぐ。



「――助けに来たよ。フラン」



 私のその言葉に、少女――フランは嬉しそうに顔に笑みを浮かべた。

 深海の底のように淀んでいる瞳が気に入らなくなる程に素敵な、同性である私でも一瞬見惚れそうな笑顔のまま、フランは口を開く。



「――ありがとう。アマテラス。君は僕の理想的な推しの魔法少女だよ」

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