第39話 もう見たくないです

 先日の一件にて、『アクニンダン』に拘束された一人の魔法少女がいた。彼女の名前は、ダイヤモンド・ダスト。



 昼間の街に現れて、一般人や魔法少女に関係なく大きな被害を齎した『改造人間』第五号ウィッチを止める為に派遣されたダイヤモンド・ダストだが、『魔法庁』はそれ以降の彼女の行方を把握することができていなかった。



 正確に言えば、『魔法庁』にそれだけの余裕がなかったのだ。

 『改造人間』第五号ウィッチによる甚大な被害。周辺住民の避難誘導に、同時に出現した高難易度の魔物の討伐。

 それらへの対処で一時的にとはいえ、『魔法庁』の機能はパンク寸前に追い込まれていた。



 そして、止めに『改造人間』第五号ウィッチを倒したアマテラスの存在である。

 『魔法庁』のデータベースに記録されている彼女の情報では、性格は良く活動熱心ではあったが中堅以下の力を持ち合わせていないはずだった。



 けれど現に大衆の目の前で、命を奪わずに『改造人間』第五号ウィッチを倒した。

 そのアマテラスとウィッチの処遇を巡り、『魔法庁』は復興作業も合わさり、上から下にてんてこ舞いであった。



 ――トップ層に位置するとはいえ、一人の魔法少女の行方不明が発覚するのが遅れるぐらいには。



 流石の『魔法庁』もダイヤモンド・ダストが、『アクニンダン』に捕まっているとはつゆ知らず。肝心の本人は、その『アクニンダン』のアジトにて囚われていた。



 囚われの身であるダイヤモンド・ダストの扱いは決して良いものではなく、彼女は声なき悲鳴を絶えず上げていた。



(――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! もう見たくない、見たくないっ!?)



 ダイヤモンド・ダスト専用に作られた特製のカプセルに満たされた液体の中で、彼女は四肢を動かせないように枷を嵌められて、『ある映像』を四六時中見せられていた。



 その『映像』の内容とは、ダイヤモンド・ダストが助けると誓った少女ウィッチがアマテラスに止めを刺される直前をひたすらにループするというもの。



 実際には、ウィッチは――アリサはフランの魔法『生体改造』の影響下から解放されており、『改造人間』でも『アクニンダン』の幹部としての力も失っていて、ただの少女に戻っているのだが。

 途中から視界を塞がれて、アリサが救われる光景を見ることができなかったダイヤモンド・ダストは、未だにアマテラスが止めを刺したという勘違いをしていた。



 そんな彼女が――魔法少女として正義感の強い少女が、自分がした約束が守れない象徴を延々と見せつけられて、果たして正気を保てるだろうか。



 結果はご覧の通り。ダイヤモンド・ダストは、自責の念で潰れそうになっていた。当初はアマテラスに対する憎悪をあったのだが、映像の最後に映るアリサの全てを諦め切った風の表情を見せ続けられることで、自責の念――というよりかは、無力な自分への憎しみへと変化していた。



 しかし、怒りという感情は意外と長続きしないものらしい。ダイヤモンド・ダストが自分自身へと向けていた怒りは小さくなり、やがては助けられなかったと思っているアリサへの謝罪、見せ続けられる映像から必死に目を逸らそうとしていた。



(――ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい)



 端的に言うと、ダイヤモンド・ダストの精神は壊れかけていた。



 そもそも成人もしていない年若い少女が、今のような状況に置かれてこうなるのは当然だろう。

 むしろ『調整』の方向性が違っていたとはいえ、決定的な瞬間を迎えるまで正気を辛うじて保っていたアリサの方が例外だった。

 結局離反したけれど、彼女も『アクニンダン』の幹部に勧誘される程度には、どこか常人とは外れていたのかもしれない。



 話は少し逸れたが、フランが雑に編集をした映像を見ることをダイヤモンド・ダストには拒否することができなかった。

 目を瞑ったり、頭を逸らそうとした瞬間には彼女に付けられた首輪から電流が流れる使用になっていて、映像を見続けることが強制されたいた。



 逃げることのできない精神的な拷問を受けるダイヤモンド・ダストの元に、近づく人物が一人。公式的には発表されていないが、『アクニンダン』の新首領のフランであった。

 彼女の顔には、見る者に嫌悪感を抱かせるような笑顔が張り付いていた。



「うふふ。相変わらず良い表情だねぇ、ダイヤモンド・ダスト。無力な自分が起こした過ちをずっと見ているのって、どんな気分かな?」

(もう嫌です見たくないです早く楽にしてください痛いのも嫌なんです!)



 歪な笑みを浮かべるフランに、ダイヤモンド・ダストはこの地獄から解放してくれるように懇願をする視線を送るが、それは異常者フランにとっては興奮する材料にしかならなかった。



 もしも、ダイヤモンド・ダストに冷静な判断力が残っていたら、全ての元凶がフランであることに気づけたのだが。

 現状の彼女に、それを求めるのは誰が見ても不可能だと判断するだろう。



「何を言っているか分からないけど、喜んでくれているのかな?」

(――お願いしますお願いします私をもう殺して)

「だけど、最近は反応がワンパターンになってきてつまらないなー。……うーん。そうだ! そろそろ実戦に投入しても良いかも。

 ――ねえ、ダイヤモンド・ダスト。僕のお願いを聞いてくれたら、君の望みも叶えてあげるけど。どうする?」

(私は――)

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