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「人と魔物はどちらが先にこの地に生まれ出でたか、それは最早誰にもわからぬが、古来より共に生きはできぬ、相容れぬ存在であった。魔物は人を喰らい、人は魔物を悪として滅する。どうしようとも繋がり合うことのできない関係性である」

「でも、この森の魔物は人を襲わないんでしょう。それでも共存はできないの?」

「不可能である。人は魔物のすべてを脅威として、魔物の殲滅を掲げている。しかし人とは強欲な生き物よ。魔物を悪と決めつけるのはただの建前に過ぎぬ。人は自らよりも力の強い者がこの地にいてはならぬと考える。己がこの世で、最も強く知恵のある生き物なのだと誇示したいだけなのだ」

「へえ。それはなんか、わかる気がするけど」


 もしも元いた世界にも魔物という恐ろしい存在がいたら。やはり同じように人間は魔物を倒そうとしただろう。

 いや、魔物というわかりやすい敵がいなくとも、自分と違うものを受け入れられずに起きる争いは数えきれないほどある。言葉や文化、信じるものが違うだけで、同じ人であっても違う生き物と認識し、共には生きられないと思い込み、排除しようとする。それが人間というものだ。

 だが、この世にあるのはそんな薄情な繋がりばかりではない。

 人を襲わない魔物がいるように、きっとどこかには、魔物と友達になれる人もいるかもしれない。


「コトコは人の癖に、そういった野心が見られないな」

「そりゃ、あんたに助けられなきゃ生きてもいけないのに、どうやって力を誇示しろって言うの」

「ふむ、誇示する力ならあるではないか」

「魔力ってやつ? それ、全然わからないんだよね。あったところで使い方もわからないし」


 ユーグは、琴子には膨大な魔力が秘められていると言う。

 魔力とは、魔法を使うための力であり、この世界では自然の中に溢れているほか、魔物や人間の体にも根付いているのだそうだ。

 魔法とは、火を熾したり、水を操ったり、物を宙に浮かせたりするものであり、魔力を豊富に持つものほど複雑で強大な魔法を扱うことができる。

 ただし、その力を自由に扱えるほどに魔力を持っている者は多くない。魔法とは非常に便利なものであるが、実際にはそれを使える人間や魔物はほんのわずかであるのだ。


 ユーグいわく、琴子の持つ魔力は、それはそれは大きなものであるとのこと。

 ユーグはもちろん、森の他の魔物よりも……王国とやらにいるという選ばれし魔導士たちよりも、さらに強い力が琴子の身には宿っている。


 しかし、そう言われたとて、琴子にはなんの実感もなかった。多少の体の異変はあるが、運動能力が上がったわけでも、空を飛べるようになったわけでもない。

 試しに、手に持ったバナナもどきの皮に「飛んでいけ」と念じてみるが、皮は手の中でしなびているだけだ。


「学べば扱えるようにもなろう。日々の暮らしが落ち着いてきたら、力の使い方を教えてやろう」


 ユーグの言葉に琴子は曖昧に頷いて、バナナもどきの皮を捨てた。魔法が使えれば楽しいだろうが、使えるようになれるとは本気で思ってはいなかった。

 同じ果物をもうひとつ手に取る。不思議な食感であるし、味はバナナとまるで違うが、なかなかに美味い。

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