第13話 ムッツリな女の子は、お嫌いかしら?
実は弥生という人物、清純そうに見えて意外と毒舌家な一面がある。だが、そのギャップ萌えが彼女のいいところでもあり、魅力を一層引き立てているのかもしれない。とはいえ、それはスミレにだけ見せる顔であって、夏樹には決してそんな態度はとらない。なぜなら彼女は、人一倍気遣いができる人間だからだ。それはまさに、二重人格と言っても過言ではないだろう……。
「でもさ、弥生ちゃんって、どうしていつも僕にだけ優しいの?」
「それは……その……」
「えっと、もしかして……何かマズイことでも聞いちゃったかな?」
「いえ、そういう訳じゃないんですけど……」
夏樹から投げかけられた疑問に対し、モジモジと弥生は言葉を詰まらせた。それはまるで、何か言い辛いことがあるかのよう。そんな中――、傍で呆然としていた妄想女が目をパチクリさせている。どうやら、ようやく現実に帰還することが出来たみたいだ。
――すると、戻って来た早々、怪しい顔つきで二人に詰め寄るスミレ。突然にも夏樹の耳元に口を近づけると、ニヤリとした面持ちで呟いてみせる……。
「それはね、 弥生っちがムッツリスケベだからよ」
「むっ、――ムッツリ⁉」
「――ちょっと、先輩! 私にも聞こえてるんですけど。ていうか、青葉さんに変なことを吹き込まないでくださいよ!」
「あら、いいじゃない。別に、減るもんじゃないんだし」
この発言に驚いたのか、思わず夏樹は弥生の方を振り返る。そこには、顔を真っ赤にしながら俯く姿。否定しているようにも思えるが、仕草を見る限りでは肯定とも取れるだろう。
「そういう問題じゃありませんよ! それに、ムッツリスケベだなんて……青葉さんに誤解されたらどうするんですか」
「誤解? って言ってるようだけど。実際のところは、本当のことなんでしょ?」
「まあ、そうですけど。――じゃなくて! 何を言わせてるんですか!」
「言わせるも何も、違うのなら堂々としてればいいじゃない。それとも、何かやましいことでもあるのかしら?」
(えっ、弥生ちゃんって……そうなの?)
弥生はスミレの挑発にまんまと乗ってしまう。その反応が面白かったのか、彼女はさらなる追い打ちをかけるように問いかける。
「うっ……それは……」
「だったら、恥ずかしがるようなことでもないでしょ? ねえ、夏樹っちもそう思わない?」
「えっ、いや……まあ……それは人それぞれじゃないでしょうか……」
「そうよね。ほら、弥生っち。私の言った通りじゃない」
スミレから急に話を振られた夏樹は、返答に困ってしまう。というのも、弥生の性癖など知る由もなければ、興味もないからだ。しかし、ここで否定しては彼女に失礼だろうと思い、無難な回答で返すことにした。
「ほら、じゃなくて。先輩のせいで、青葉さんに変人って思われたじゃないですか! ああ、もう……穴があったら入りたい……」
「まあまあ、そんなに落ち込まないでよ。ムッツリな女の子も、意外と需要があるんじゃないの?」
「そんな需要、あるわけないですから! ていうか、あったとしてもいりません!」
「ほんと弥生っちって、強情よねえ。けど、もしかしたら夏樹っちだって、そっちの方がタイプかもよ」
(いやいや、僕にそんな趣味はないですけど……)
心の中でツッコミを入れる夏樹は、思わず漏れ出しそうな声を慌てて抑え込む。何故なら、迂闊な発言で、弥生を傷付けてしまう恐れがあるからだ。とはいえ、スミレが言うように、エロい女の子が好みという男性もいる。けれど、それはあくまでも少数派であり、大多数はノーマルな女性を好む傾向にあるだろう。
このように、性癖には個人差があって、他人がとやかく言うものではない。ましてや、本人が隠しておきたければ尚更だ。こうした理由から、そっと様子を眺めていたが、彼女との雰囲気は益々気まずい状況に…………。ゆえに、これでは居心地が悪いと感じた夏樹は、場を和ませるため話題を変えようとした。
――そんな矢先のこと。背後から聞きなれた声と、爽やかな香りが三人たちを包み込む……。
「おやおや、相変わらず私のチームは賑やかね」
「あれ? お姉ちゃん、今日は直帰って言ってなかった?」
「こら、弥生。その言い方はやめなさいって、何度も言ってるでしょ。職場では、高坂リーダー。もしくは、リーダーって呼びなさい。いい、分かった?」
「ごめんなさい、お姉ちゃん」
突然にも背後から現れた高坂という女性。年齢は四十代前半で、弥生の姉でありチームを纏め上げる上司でもあった。その容姿はというと、モデルのような体型に整った顔立ち。さらに髪は長く艶があり、まさに美人という言葉が相応しいだろう。また彼女は仕事が出来るだけでなく、面倒見もいいため部下からの信頼も厚い。それ故か、社内では憧れの女性として有名で、男性社員からの人気も高い人物だ。
「もう……言ってる傍から、またその呼び方になってるわよ」
「あはは……つい、いつもの癖で」
「ふふっ、しょうがないわね。次からは気を付けるのよ」
「はぁ……い」
弥生は姉である高坂の注意に、素直に謝りながら頭を下げた。その反応は、まるで親に叱られた子供のよう。スミレと接していた時の態度とは大違いであった。
「あの……高坂リーダー。お話の最中、申し訳ありません。今日は、どうしてこちらに? 予定表には、会議と書かれていましたが?」
「お疲れさま、青葉くん。それがね、急遽会議が延期になったのよ」
「そうだったんですね」
「ええ。これからスケジュール調整もしなくちゃいけないし……本当に困ったわ」
夏樹が労いの言葉をかけると、高坂は溜息交じりに言葉を返す。どうやら、今日の予定が延期になったことで気が気でないのだろう。
「それって、大変な作業じゃないですか?」
「まあね。でも、これもリーダーの仕事だから仕方ないわ。ところで、さっきは盛り上がってたようだけど、何を楽しそうに喋っていたの? 良かったら、私にも話の内容を教えてくれないかしら?」
「話の……内容ですか? それは……その……」
「んっ? どうかしたの?」
高坂からの問いかけに、夏樹は言葉を詰まらせてしまう。というのも、三人がやりを取りする中で、弥生がムッツリ女子であることが判明したためだ。けれど、本人を前に性癖を暴露するわけにも行かず……。
かといって、この場を上手く誤魔化せるような名案も思い浮かばない。ならば、自分の代わりに内容を説明してもらうため、スミレに目配せして意志を伝えようとするのだが…………。
🥀たとえこの身が滅びようとも、僕は決して君を忘れはしない🥀 🍀みゆき🍀 @--miyuki--
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