第9話 羊の毛のカバン。と思ったらけっこうやばいものだった。

ガサガサゴソゴソ。


 僕は、アイテムボックスの中から武器を漁っている。

というのも、気が付いたのだ。

冒険者の中に、アイテムボックス持ちがいて、アイテムボックスから、武器やらポーションやらを出し入れしているものがいるのを。


 もしや?と思って、自分もアイテムボックスに手を突っ込むのをイメージして、手を動かしてみたらできてしまった。

 パウルめ、言ってくれよ。絶対気付いてただろ。

家で寝ているはずのふてぶてしい猫を思い出して、少し非難する。


 自分で言うのもなんだが宝の山である。なんせ、僕の20年来にわたるゲームライフで得てきた、武器、防具、アイテムの山なのだから。

(ひょっとして、これを宝の山と思うのは自分だけで、他人からすればゴミの山かも……)

 そんな穏やかじゃないことを一瞬考えたが、いやいや、絶対これは自分にとっても他人にとっても宝の山だろうよ。と考え直す。


 とりあえず、TPOをわきまえて、初心者冒険者っぽく見える(が、実はボーナス付きでけして弱くない)アイテムを見繕う。


 皮の鎧+10、皮のズボン+11、皮の籠手+9、皮の脛当て+9、皮の兜、+10。

なつかしい。15年以上前に遊んだ【エルフィンハンター】というゲームの、皮装備の最上級装備である。見かけはぼろっちい皮装備だが、性能はあなどっちゃいけない。

 武器は、初心者用魔法剣。こちらは【ストライクプリンセス】というゲームの初心者装備を、僕が最大限強化した武器である。その強さは、ラスボスともこれで戦えるほど。こちらもあなどってはいけない。見た目はぼろい黒剣だけど。


 後ろのほうで僕を見ていたメルが

「ふ~ん。アイテムボックス持ちなんだ?」

と声をかけてきた。

「一応」

と僕が答えると。

「わたしもお兄ちゃんもそういうのないから……いいなぁ」

と、うらやましそうに言った。


 ここでひょっとしたらと思って、アイテムボックスに手を突っ込んで、ごそごそあるものを探した。

「これでよかったらどうぞ」

メルにポンポンと二つ、ウェストポーチを渡した。

「なにこれ?」

メルは不思議そうにそれを見やり、ふたを開けて中を見る。

「?」

ぼくも一緒に中をのぞいてみたが、見た目はただのカバンの中身だ。

試しに、僕が、先ほどの黒剣を入れてみると、するすると入って全部収まった。

「え゛?」

メルが、素っ頓狂な声を発した。

「なにこれ?!!こんなの見たことないんですけど!」

ぼくは何気なく、【ストライクプリンセス】というゲームの、「羊の毛で編んだアイテムボックス」というのを渡しただけだが、どうやらこの世界では、常識外れだったっぽい。

「あはは。むかしある冒険者にもらったんだけど、僕はほら、アイテムボックス持ちだから、いらなくて……」

そう言って僕は言葉を濁した。

「いいの?こんなの二つももらっちゃって?」

「ほら、僕が持ってても宝の持ち腐れだし、仲間は強いほうがいいし」

(とても、いつでも簡単に作れるから、なんて言えない。あんまり下手なことはしないほうがいいなぁ)

「いいのいいの」

ぼくがそう軽く言うと

「お兄ちゃ~~ん!」

メルは、アランのほうに、トタトタと走っていった。

(ほら。やっぱり宝の山だ)

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