略奪
亮が地平線を目指して歩き始めて数刻。 風に乗って、焦げ付くような異臭が漂ってきた。そして、次第に耳を劈くような悲鳴と、剣戟の音が混じり始める。
(まさか……)
胸騒ぎを覚えながら、亮は草木を掻き分け、高台へと駆け上がった。 視界が開けた先に広がっていたのは、目を疑うような光景だった。
小さな村が、炎に包まれている。 黒煙が空へと昇り、赤々と燃え盛る家屋の屋根が次々と崩れ落ちていく。 村人らしき人々が逃げ惑い、中には剣や棍棒を持った屈強な男たちに切り伏せられている者もいた。略奪者たちの獰猛な笑い声が、焦げた匂いと共に風に乗って届く。
「……なんだ、これ」
亮の全身から血の気が引いた。 先ほどの魔狼との戦いは、まだ「ゲーム」のような、非現実的な感覚があった。だが、目の前で繰り広げられているのは、人間が人間を傷つける、紛れもない「現実」だった。 助けを求める女の声が、亮の鼓膜を叩く。背中を向けたまま、子供を庇うようにして倒れ込む母親の姿が見えた。略奪者の一人が、無感情な目で得物を振り上げる。
(止めなきゃ――!)
頭では理解していた。だが、身体が動かない。 平凡な高校生だった彼には、目の前の惨劇に飛び込む勇気も、力も、何一つ持ち合わせていなかった。 亮は、握りしめた『パラレルワールド・ナビゲーター』を視界に捉えた。
『事象の検索――世界線No.113:傭兵王の時代。対象、広範囲精神干渉術』
亮の脳裏に、再び無機質な声が響いた。 次の瞬間、亮の視界に映る戦場の全てが、青白い光を帯びて見えた。 略奪者たちの持つ剣、彼らが振り上げる腕、その全てが『選択可能な事象』として、亮の目の前に提示されているかのようだ。
亮は右手を大きく広げた。 その指先から、目に見えない「波紋」が、戦場へと広がっていく。 波紋が略奪者たちに触れた瞬間、彼らの動きがピタリと止まった。 混乱したように周りを見渡し、互いに顔を見合わせる。そして、唐突に狂ったように叫び始め、互いに得物を向け始めたのだ。
「う、裏切り者だ!」「貴様、なぜ剣を向ける!」「仲間割れか!?」「殺せ!殺してしまえ!」
略奪者たちは、亮の『精神干渉術』によって、互いを敵と認識させられていた。 激しい斬り合いが始まり、つい先ほどまで村人を襲っていた彼らが、今度は血と臓物を撒き散らしながら自滅していく。 その光景は、亮にとって悪夢だった。彼らを救ったわけではない。ただ、別の地獄へと突き落としただけだ。
「俺は……何を……」
亮の震える掌から、光が消え去った。 手元の『パラレルワールド・ナビゲーター』のページが、風もないのに震えている。
――『精神干渉術』は、使用者の精神に深い疲労をもたらします。 ――過度な使用は、使用者の精神構造そのものに影響を及ぼす可能性があります。
亮の脳裏に、新たな警告文が浮かんだ。 激しい吐き気に襲われ、亮はその場に座り込む。 助けを求めるはずだった村は、略奪者たちの自滅によって、さらに血と悲鳴に塗れた戦場と化した。
彼が手にした力は、あまりにも強く、そして残酷だった。 この力は、本当に「願い」を叶えるものなのだろうか? 亮は、答えのない問いを抱えながら、血腥い風の中で呆然と立ち尽くしていた。
スキル「パラレルワールド」で異世界をのんびり過ごしたい。 @ikkyu33
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