白蛇の子

白木 春織(しろき はおる)

序章

その起りは、神代の時代に遡る。中央の大王、白蛇をたてまりし北の蛮族の所業に困りて、討伐に双子の妹兄いもせ白鷺命しらさぎのみこと錫白姫命すずしろひめのみこと使わせ給ふ。

 その道中、蒼き狼の双頭近づき、神に使われせし、と御子らの供を願いでる。狼の力甚だ大きく、見事、一行は、蛮族討ち果たしたる。大王喜びせしめ、錫白姫命を狼の妻に、自身の眷属たる黒鴉、赤牛をこれに与え給ふ。以後、狼の双頭は、蛮族が納めせし「境」の守護を仰せつかる。これ大口国の起源なり。

大口真神神社縁起絵巻おおくちまかみじんじゃえんぎえまき』より


「大物の山にいかん。白蛇の子を花嫁としたまへ」

 古の大蛇の鱗から作られたという、鏡を奉る祭壇の御前おんまえにて、死に際の老婆の声とも、鬼に身を落とす女の悲鳴ともわからぬ、おぞましい声色が放たれた。

 言葉を吐くのは、この国で最も尊き金青こんじょうの衣を纏いし巫女の、つねの声ではない。宿って・・・いるのだ。

 つまり、その言祝ぎは小碓おうすの一族が必ず執り行わねばならぬ、決定事項にほかならない。例えそれが、この世ならざるものとの境界に足を踏み入れることになろうとも。

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