第11話



 「…今、なんて…?」


 「はじめまして、って言ったの。キミと会うのは、初めてだから」



 からかわれてるのかと思った。


 俺たちは昔からの知り合いだ。


 一緒にこの町で育った。


 「はじめまして」なんて、俺たちの間には存在しないはずの言葉だった。


 10年前とかならまだしも。



 「この姿だから、戸惑うとは思うけど」



 この「姿」だから…?



 待て待て



 …なにを言ってる?



 ますますわからなかった。


 どっからどう見てもしおりだろ?


 彼女は笑うでもなく、憮然とした表情で俺を見ていた。


 笑っていいかどうかもわからなかった。


 冗談を言ってるにしても、笑えない。


 笑えないっつーか、意味がわからない。


 今は冗談なんて言ってる場合じゃないしな。


 …大体、こんなところで何してるんだ?


 確か、寮にいるはずだろ?


 彼女は上京してた。


 ピアニストになるっていう夢を追いかけて、都内で有名な音楽学校に進学してたはずだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る