第15話 素直になれ*勇運*②


「……っ」

「……それに、弟を信用しろ。兄貴が戻って来るまで、死にはしないって」



すると兄貴は、キッと俺を睨んだ。

だけど、いつぞやと同じく、



「その言葉、忘れないように」



そう言って、子供を隙間から引きずり出した。

そして――



「負傷者一名、確保!」



俺のそばから、離れて行った。



「は~……手のかかる兄貴だな」



挟まれている足を見ながら、ため息をつく。足は挟まれているものの、感覚はある。血が出てないのが、不幸中の幸いだ。


だけど、時間が許すか分からない。


耳をすますと、ミシミシと、確実に板が動いている音がする。さっき兄貴は、この板を「看板」って言ってたな。どうして看板が落ちてくるのか、怒りしか湧いてこない、が……。



「冬音たちが助かっただけ、良かったな……」



なぁ、冬音。

さっきの兄貴の顔を見たかよ?



――ウソつくな。兄貴だって、冬音を諦めたくないくせに



あの時の兄貴、「なんで分かった?」って。顔に、そう書いてあったんだぞ。冬音が片思いをしている間は、冬音の傍にいようと思ったけど……兄貴も冬音を好きなんじゃ、俺は完璧に邪魔者だな。



「ちょうどいい潮時、か」



最後に、冬音をこの手で守れたんだ。隣にいたからこそ、お前を守ることが出来た。本望だよ。もう思い残すことは、何一つだってないくらいだ。



「あ、でも……最後に、」



ここ数日、冬音はずっと浮かない顔をしていた。だから最後に、お前の笑った顔を見たかったなって。そんなどうしようもない心残りが、僅かな希望のすき間に生まれてしまう。



「冬音、笑えよ。いつだって、お前は自由なんだから」



そして兄貴。冬音がずっと笑っていられるように、今度は兄貴が冬音の隣で守るんだ。俺は、兄貴に冬音を渡すまでの、繋ぎでしかない。


だけど、最高に幸せだったよ。だって俺がしたい事を一番にしてきたんだから、後悔はない。



「ありがとう、冬音」



呟いた、その時だった。



「、くん――――勇運くん!」

「!」



すぐそばで、冬音の声が聞こえる。見ると、いつの間にか震えていた俺の手に、最大限に伸ばされた冬音の指が、そっと置かれていた。



*勇運*end

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