第11話 警察帽子に隠れた素顔②
『陽の丘〇〇丁目、××道路にて多重事故発生。合計六台玉突き、マル被多数、程度不明。道路封鎖のため渋滞発生。陽の丘隊、機装隊……――計十五隊。*緊配発令』
「……」
守人さんは何も言わない。代わりに、さっき被った帽子をキュッと、目深に被り直した。
(*緊配・きんぱい……緊急配備のこと)
そして私の家の玄関に目を向けた、ちょうどその時。無線でやり取りをしながら、柴さんが出て来た。一通りやり取りを終えた柴さん。無線を元の場所へ戻し、守人さんを見つめる。
「一葉、頭の喚起は?」
「大丈夫です、ご迷惑おかけしました」
ペコリと、守人さんがお辞儀をする。すると柴さんが僅かに頷き、守人さんの肩をポンと叩いた。
「緊配なので広範囲の事故です。朝までかかりますよ」
「覚悟は出来てます」
「……よろしい」
「それでは失礼します」と、二人揃って私にお辞儀をし、そして去って行く。小さくなっていく後ろ姿を、私は見送るのだけど、
「あれ……?」
背の高い二人は、並んだ時に背丈が余り変わらない、はずなのに……。なぜか今は、守人さんの方が、頭一つ背が低く見えた。それが「守人さんが下を向いていたからだ」と理解するのは、夕立が来て、濡れた地面に目を向けた時である。
「守人さん……」
この雨が、なぜか不穏感も連れてきたような気がして。心細くなって、ギュッと手を握りしめる。そんな私を、家の中から見かねた勇運くんが「風邪ひくぞ」と。傘とタオルを持って出てきてくれた。
「何があったんだよ」
「あ……ううん。何でもないの」
「……」
直後「には見えないけどな」と、勇運くんは私の頭を拭く。
「わ、ぶ!?」
「中も特に何も無かったぞ。“この度は力及ばずすみませんでした”って、柴さんが言ってた」
「柴さんが謝ることじゃないのになぁ」
そして私が家に入って、しばらくして――街中に、パトカーのサイレンが鳴り響く。一台や二台じゃないと容易に分かるけたたましいサイレン音が、柴さんの言った通り「広範囲」の事故を物語っていた。
「にーちゃん、すごい数のパトカーだ!」
「そ……、そうだな……」
長い間、夏海と一緒にいたことで、電池が切れて来た勇運くん。テレビの「速報ニュース」で、守人さん達も向かった現場の生中継を、夏海とカニ白目で見ていた。
私は必死に守人さんを探すのだけど……警察の人みんな、雨のせいでカッパを着ているからか、顔が見えづらく探せない。
――僕はちゃんと、前を向いてるよ
「安心できる言葉、のはずなのに……」
大丈夫かな
ケガしてないかな
なんて。不吉な予想をしてしまう。
「雨、早く止まないかなぁ……」
窓の外側を見ると、黒い雲が遠くまで伸びていた。それはどこまでも果てしないように見えて……雨が一秒でも早く止みますようにと、願わずにはいられなかった。
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