第84話

言われた通りに書いた曲は、瞬く間にヒットして行った。



ロンドンのソウルをリスペクトしていた筈なのに。いつしか俺は、

売れ線のJ-POPばかりを書いていた。エレクトロサウンドが入れられ、編曲され、


俺は俺らしさを見失いかけていた。





自分の音楽が消費されてる事に時間は掛からなかった。


ビジネスとしてのTATSUYAさんのやり方は間違ってない。俺らは自分たちが知らない間に、有名になっていたようだったから。


だけどテレビや雑誌で見る自分は、空っぽの笑顔で笑っていた。






子供の頃から、いつかあそこに。と憧れていた世界が…


望んでいたものと違う。







恐ろしくて、そんな事は口に出せなかった。


…そんな絶望感を、俺は胸の中にしまい込んだ。






「ドラマ…?」


「あぁ。準主役のオファーが来てるらしい。凄いじゃないか、シド。映画化が決まってるドラマだぞ?」


「いや、俺は演技とか無理だよ。勉強した事ないし…」





スタジオにいる俺たちの中から、俺だけを呼び出したマネージャーに、俺はそう返事をしてスタジオに戻ろうとした。




「シド。チャンスだぞ?お前の名前が一気に知れ渡るチャ…」


「俺はアーティストですよ…?アーティストとして有名になりたいんです」


「そんな事言わないでさ、シド。仕事を選ぶなとは言わないけど良い話しだから」


「俺は、3人で音楽をするために…。第一連ドラなんか出たらこっちの仕事する時間大丈夫なんすか?俺は作曲もあるし…」


「シド。ジョーはあの明るい性格を買われてソロでラジオや、テレビ番組のレギュラーの話しが来てるし、ハクは鍛えてるし、スポーツジムのイメージキャラとかスポーツウェアのモデルとかの仕事を受けてるぞ?」



……そんなの……



「お前だって初めの頃はモデルだってCMだって喜んでたろ?お前はヴィジュアルも良いし、1番オファーが多いんだから」




そんなの……音楽と関係ないじゃねぇか。

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