キミが好きなのは、私だけど私じゃない。

みゅう

第一章 仲良くなるために必要な事。

第1話(1) 凸と凹が噛み合えば。

「――キミに伝えたい事がたくさんあるんだ」


 私は、叫ぶように/しぼり出すように/恋焦こいこがれるように/祈るように、そう目の前の少女に想いをぶつける。


 それは気持ちの吐露とろであり、心の咆哮ほうこうであり、今までの自分からの脱却であり、新しい一歩を踏み出す上でのケジメであり、また愛の告白だった。


 ………………。

 …………。

 ……。


 高校入学から一週間。私はていに言えば浮いていた。もちろん、物理的にではなく、比喩ひゆ表現としてだ。


 その原因は明らかに私にあった。


 私は昔から、思っている事を口にするのが苦手だった。

 考え過ぎてしまったり思考が遅かったりタイミングを取るのが下手へたくそだったりと、理由は様々あるがようはコミュニケーション能力に難があるのだ。中学まではそれまでの関係や周りのフォローもあってなんとかやってこられたのだが、高校に入りクラスに知り合いがいない状況になった途端とたん速攻学校生活がんだ。まさに、小清水こしみず斗万里とまり先生の次回作にご期待状態。始まって数日の打ち切りは不祥事ふしょうじ以外では前代未聞の出来事で、きっと後世に語りがれる伝説となる事だろう。


 閑話休題かんわきゅうだい


 詰んだという表現を思わずつかってしまったが、実は居心地が悪いわけではなかった。


 クラスメイトはいい人ばかりで、向こうから挨拶あいさつをしてくれるだけでなく声まで掛けてくれる。私が上手うまく言葉を返せず会話はぎくしゃくしたものになってしまうが、それでも慈悲深じひぶかい笑顔を浮かべ最後は去っていく。まさに、天使のような人達だ。


 とはいえ、いつまでもこのままというわけにはいかない。出来るだけ早い内にクラスの中で会話が出来るお友達を作らなければ……。そうしないと、下手をすれば三年間モノクロの学校生活を送る事になってしまう。


 ――そんな決意はどこに言ったのか、何もアクションを起こせないまま今日も学校生活が終わってしまう。


 帰りのホームルームも終わり、クラスメイトが各々おのおの動き始める。足早に教室を後にする者、ゆっくり教室を出ていく者、教室に残って会話をする者……。私はそのどれにも当てはまらない、自分の今日の言動を反省する者だった。


 結局今日も、まともにクラスメイトと会話をする事が出来なかった。

 朝の意気込みはどこに行ったというのか。


 心優しきクラスメイト達がしてくれる挨拶にそれぞれ「ごきげんよう」と笑顔で言葉を返しながら、私は心の中で大きな溜息ためいききつつ教室を後にする。


 変わらなければと思ってはいるが、実際にそれを実行する事が出来ない。


 まったく、我ながら難儀な性格をしているものだ。


「どうやらその様子だと、今日も上手く行かなかったみたいだね」


 数メートル先、廊下ろうかの途中に立つ女生徒が、そう私に話し掛けてくる。


 彼女の名前は黒木くろきゆう。背は確か百七十ちょうど。私より数センチだけ高い。セミロングの黒髪と整った中性的な顔立ちに加えモデルのようにスラリとした体躯たいくから、男性より女性人気が強い、私の自慢の幼なじみだ。


「そんな簡単に言ったら苦労はしない」


 簡単に出来ないからこそ私は悩んでいるわけで、簡単に出来たらそもそも悩んでなどいない。


「行動を起こさなければ、いつまで立っても何も変わらないよ」


 私の隣に並び、悠がそんな事を言う。


 分かってはいる。分かってはいるけど……。


 二人で廊下を歩く。


 私達はまだ部活に所属していないので、後は帰るだけだ。


 中学時代、私は陸上部に所属していた。選んだ理由は個人競技だから。その理由なら水泳部でも良さそうなものだが、陸上部の方が色々な面で競技がしやすかったのでそちらを選んだ。やはり水着に着替えてプールに入る分、前者の方が少なくとも私にとっては面倒めんどうが多い。


 何もなければ、今のところ高校も陸上部に入るつもりでいるが、果たして……。


 ちなみに、悠は中学時代バスケ部だった。学校の中では一番上手く、まさにエースの活躍を見せていた。チーム自体が強くなかった事もあり結果はかんばしくなかったが、先輩達に混ざっても決して引けを取らないはずだ。


「悠は高校でもバスケ部に入るの?」

「どうだろう。考え中」

「え?」


 驚いた。あんなに上手じょうずなのに、なんで?


 私からしてみれば、バスケをしている時の悠の動きはまさに神技で、真似まねする気が起きない程ものすごいものに思える。それを続けないなんて、本当に勿体もったいない。


「中学の時頑張がんばり過ぎた反動、みたいな。モチベーションがね、いまいち上がらないんだ」


 そう言って悠は、苦笑をその顔に浮かべた。


「斗万里は? やっぱり陸上部?」

「とりあえず、第一希望ではある。運動部に入るなら、そこしかないかなって」


 もちろん、入らないという選択肢せんたくしもあるし、なんなら文芸部という選択肢もある。私は悠とは逆で、それ程陸上に打ち込んでこなかったから。


「部活入ったら友達出来るかもよ」

「うっ」


 いまだクラスに友達のいない私からしてみたら、その発言はクリーンヒットに近いものだった。


 確かに、共通の話題が出来れば、おのずと話す機会も増える。そうしたらきっと、友達の一人や二人くらい……。


「もうすぐ仮入部期間だし、考えとくよ」

明々後日しあさってからか。私も考えないと」


 私達のように強い候補こうほがある人間はいいが、本当に今から決めるとなると仮入部期間は意外と短い。一週間で複数の候補を試しに行かないといけないのだから。


 思えば、中学の時は私も大変だったな。背が高いからバレーにバスケと見て周ったけど結局しっくりこず、他の球技も試したがやはりダメで、最終的に行き着いたのが陸上部だった。個人競技万歳ばんざい。リレーは一応チーム競技だけど。

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