第7話

「攻撃と言えば、どうして、下関基地からの反撃が止まったのかな」

島田が山南に聞く。

「分からないんだ。無反動砲を2発撃って、その後機関銃を打ち込んでたら、サーチライトをこちらに照らされてすごい反撃が始まってさ、原田はやられるし、ともかく岩に隠れてやり過ごすしかない。

こちらに渡ってこられたらもう駄目だとなって、ともかく島田と吉村に救援の連絡をしたんだけど、

その5分後くらいかな、わーわーと声が聞こえて、サーチライトも、攻撃も無くなって、岩陰から覗くと基地の右手の方に大勢の人が集まっているような感じで、サーチライトもそちらを照らしていたんだ。銃撃はどちらからも無かったな」


「その話は、次に整理しよう。今の話で攻撃は成功したのだな」

山南の話を遮って榎本が山南と原田に確認する。

「はい、外部からの攻撃と認識させました。小倉も成功ですか」

山南が榎本に聞く。島田が答える。

「成功だよ。無反動砲2発で止まっていたジープ2台が木っ端みじんさ。

その後機銃を撃ったんだけど、残っていたジープ3台で追いかけられちゃって、うまく撒いたけれど。軍隊の攻撃を受けたことは中国軍もしっかり分かっただろうな」


「坂本君も機銃を撃ったりしたの」

土方が坂本を見て言う。

「俺は、ほら、連絡係してたからさ。そりゃいろいろと、やったさ」

島田が吉村に小声で、でも回りに聞こえるように呟く。

「坂本さんの逃げ足の早さ。皆さんに見せたかったですね。なあ、吉村」

「そう、すごかったですよ。撤退戦のプロですよ。私達追いかけるので精いっぱいで」

土方が軽蔑するような目で坂本を見る。

「そんなことだろうと思ってた。結局逃げ出したってことね」

俯きながら坂本が小声でつぶやく。

「だから連絡係してたんだよ」


榎本が話を打ち切るようにみんなに向かって言う。

「りゅうちゃん、松前と竜飛から連絡は入っていないか確認してくれないか」

慌てて、坂本がスマホを取り出す。

「入ってる。えっと、近藤からは、4時28分に『攻撃成功、全員無事。これからトンネルに入る』ってショートメールが。

馬鹿だなあいつは。攻撃なんて使ったらばれちゃうじゃない。

それにトンネルに入るって、追いかけてくれって言ってるようなもんだろ。

傍受されてるかもって考えないのかね。ま、ともかく成功みたい」

そこで一息入れて続ける。

「竜飛の岡田からは、4時32分。これも『攻撃成功』のショートメール。

やっぱり岡田も馬鹿だな。

それと『全員、青函トンネルに入った。ユミ達を待つ』だと。バレバレじゃない。少しは考えろよ」

「ともかく、松前も竜飛も攻撃が成功し、皆無事ってことだ。よかった」

榎本が笑顔で話す。


「ちょっと待ってよ。これなんだ」

坂本がスマホをいじりながら叫ぶ。

「近藤達が松前を攻撃している画像があちこちにアップされてる」

榎本が坂本のスマホを除きこむ。その様子を見て、武市、土方が慌ててスマホを取りだし操作する。土方が叫ぶ。

「松前だけじゃないですよ。竜飛も」

同じようにスマホを操作していた吉村が叫ぶ。

「ほらこれ、私達が小倉駐屯地を攻撃して撤退する動画も出てます。

ほら、坂本さんが走ってる。

それに、中国軍のジープの前に大勢の人がいてジープが止まってる画像もある。何百人もいますよ」


「これだよ。『ハッシュタグ反撃。自衛隊と民間人の勇士が占領軍を攻撃。

1月6日早朝4時に松前、竜飛、下関、小倉で決行するらしい』これに、『応援しに行こう』のリツイートがすごい」

坂本の言葉に土方が納得したように言う。

「下関で私達への攻撃が止まったのは大勢の人が集まったからなのね」

「冗談じゃないよ。これじゃ、ロシア、中国とアメリカを戦わせる武市の計画がつぶれちゃうじゃない。どうしよう榎本さん」


「ま、いずれ分かることだからな。残された砲弾や銃弾を調べれば、自衛隊の物ってことが」

「そうなの。それじゃ、この計画初めから駄目だったの」

「まあ、この作戦に参加した、陸自の皆も、私達海自もそれは分かっていた。すぐにとは思わなかったけれど、いずれは自衛隊の兵器の攻撃だとわかるだろうってね。

でも、アメリカと中国、ロシアが本格的に戦争することはなくても、小競り合い位はするだろう。

それに、国土を攻撃され、占領されてなにもしない、何もするなって、我慢出来ないだろ、いくら命令でも。我々は国を守る自衛隊だから。

上層部でどんな裏取引があったのか知らないけれど、我々みたいなのがいてもいいんじゃないかと、武市君の計画に乗ったんだよ。

だましたわけじゃない。もしかすると、彼らの小競り合いから計画通りになる可能性だってある。軍隊ってのはそんなものだしね。まあ、もう少し様子を見よう。


りゅうちゃん、そんないやな顔しない。攻撃隊は休んでくれ。土方、負傷者の手当てを頼む。さあ、青森へ向かおう」

榎本の言葉に、海自の皆は、持ち場に向かう。

坂本の腑に落ちないような顔に武市が「榎本さんの言うように様子を見よう。僕はうまくいくと思うよ」と声をかけ土方を追う。


青森に向かい始めて1時間位過ぎた頃ソナーを見ている松岡が榎本を呼ぶ。

「榎本さん、見て下さい。この間の周りに多くの小型艦が近づいてきます。敵に囲まれました」

榎本が慌ててソナーをのぞき込み、艦橋へのラッタルへ走り登り始める。

「榎本さん、潜望鏡上げます」

松岡の叫び声に、艦橋の上の方から榎本の「いや、いい。直接見る」と返事が返る。


艦橋から戻ってきた榎本が笑顔で、発令所にいた松岡と甲賀に声をかける。

「甲賀、陸自のみんなや武市君たちを呼んできてくれ。

艦の乗員達にも交代で艦橋に来るように伝えてくれ。ここは私が見ているから松岡、艦橋に上がって見ろ」

艦橋に上がった松岡が笑顔で戻ってくる。

ぞろぞろとやってきた武市や坂本、土方、陸自の4人に、松岡が「皆さん、艦橋に上がって外を見て下さい。側扉も開けてありますから」と嬉しそうに言う。


坂本がラッタルを登る。武市や土方、陸自の4人はそれを見ている。

艦橋の一番上から坂本が「おーい、おーい」叫びながら外に向かって手を振っている。

「みんな、外を見てみろよ」

坂本の声につられて、皆はラッタルを登り艦橋の上や側扉から外を見る

数十隻の漁船が日の出前の薄明りの中、日の丸や大漁旗を振り『みちしお』の周りを囲み進んでいる。

『みちしお』に向かって手を振る人も大勢いる。

艦橋のみんなも思わず漁船に向かって精いっぱい手を振る。それに合わせたように、漁船から一斉に汽笛が鳴る。


発令所に甲賀に呼ばれた海自の数人が集まってくる。艦橋の下から松岡が上に向かって声をかける。

「皆さん、すみません。交代してもらえますか。海自のみんなにも見せたいので」

坂本たちに替わり、海自の隊員たちが艦橋に上がり周りの漁船に向かって手を振り声を上げる。

降りてくると持ち場に戻り代わりの隊員がやって来て艦橋から外に向かって手を振り声を上げる。


全員が見終わったのを確認して榎本は、発令所で喜び合っている坂本たちや陸自、海自の隊員たちに向かって話す。

「敵同士を戦わせると言う計画は成功しなかったかもしれないが、大勢の日本人が喜んでいる。

これで十分だろ、武市君、りゅうちゃん、みんな」

「うん、大成功さ。もともと僕は武市の計画なんかだめだと思ってたんだ。始めからこっちの方が良かったんだよ」


坂本の言葉に武市が思わず口を挿む。

「相変わらず、いい加減な奴だな。でも、これで、僕達、いや、榎本さん達や、近藤達、自衛隊の皆さんは大丈夫ですか。命令もないのに勝手に攻撃したのがばれちゃうことになったんですよね」

「そうだな、何らかの罪は問われるだろうな。それが、自衛隊からなのか、占領軍からなのかは分からないが」

榎本の答えに、武市は坂本を見て強く言いう。

「ほら喜んでいる場合じゃないだろ。よく考えろ」

「まあ、ともかく高知と呉に戻ってからだ。まず、近藤達を迎えに進もう」

榎本の言葉に発令所の全員が頷く。


坂本のスマホで榎本と近藤が連絡を取り合い、3日後の12日の午前に、竜飛岬の竜浜海岸で8人を回収することになった。

この3日の間、昼夜と問わず『みちしお』の回りには漁船や小型、中型の貨物船などが並走しており、坂本たちや陸自の隊員などが交代で艦橋から手を振るなどしていた。


12日の午前10時頃竜浜海岸に着くとそこには、数百人、いや数千人と思えるような人々が海岸を埋め尽くしていた。

『みちしお』が海岸に近づき甲板に数人が現れると海岸から一斉に歓声が上がり拍手、手拍子が始まった。

やがて、数隻の小型漁船が近づいてきた。そこには、二人づつ4隻に分かれて乗っている近藤達の姿があった。


小型漁船から、まず近藤が『みちしお』に引っ張り上げられ、甲板で待っていた榎本と固く握手、そして、土方と抱き合う。

続いて岡田、永倉、斎藤、山崎、井上、藤堂が甲板に上がり、最後に沖田が上がる。

みんな、榎本と握手し、陸自の皆は、山南、原田、吉村、島田と再会を喜び合い、原田の怪我の話で盛り上がる。


岡田は、甲板の坂本を見つけ、思わず抱きしめる。

「やめろよ、男に抱き着かれてもうれしくないんだよ」

さすがに坂本も笑顔だ。

「あれ、武市はどうしたんだ。何かあったのか」

「あのドジはさ、岩場で転んで膝をこすっちゃって、歩くと痛いからって中にいるよ」

「大きな怪我なのか」

「大したことないよ。土方にも大丈夫って言われてるのにさ、みんなに同情してほしいだけ。全く心配ないよ」

海岸からは、歓声と手拍子が続いている。甲板のみんなが、海岸に向かって手を振るなか、『みちしお』はゆっくりと沖に向かう。

いつのまにか数十隻に増えた漁船、貨物船に囲まれながら『みちしお』は津軽海峡を抜け高知へと進んで行った。


16日の朝8時過ぎ『みちしお』は桂浜沖に到着した。

ここまで多くの漁船や貨物船が途切れることなく、『みちしお』を守るかのように回りを取り囲んでいた。桂浜にも『みちしお』を出迎えるかのように大勢の人がいる。


榎本はエンジンの停止を命じ、全員を発令所に集めた。

「さあ、我々が出発した桂浜に到着した。

そして、全員生還した。私達の計画はこれで終了だ。成功だったかどうかはそれぞれが決めれば良い。

私は、なんというか、楽しかったと言うのかな。それじゃここで解散しよう。私たち海自は呉に帰還する。近藤、陸自はどうする」

「我々も駐屯地に戻ります。いいな、みんな。とし美はどうする」

「私も一緒に駐屯地に。荷物も置いたままだし」


榎本が、坂本たち3人を見る。

「君たちはどうする。りゅうちゃん、一緒に呉に来るか」

武市が榎本と握手し話す。

「僕と岡田は高知に戻ってそれから東京で就職活動します。少し有名になったみたいだからうまくいくかもしれない。あっ、僕は怪我の治療も行いながらですね。坂本はどうするか知らないけれど」

坂本が武市の言葉を遮るように叫ぶ。

「なんだよ、お前まだ怪我を馬鹿にしたのを根に持ってるのかよ。ほんとにねじれた奴だな。僕も就職活動に決まってるだろ」

「根に持ってるってなんだよ。榎本さんが言ったから坂本がどうするのかなって言っただけだろ」

「いいかげんにしろよ」

思わず、岡田が二人を止める。


榎本が笑顔で坂本を見る。

「そうか、それじゃ、りゅうちゃん、いったん離れ離れだ。分かってるだろうが、私のいないところで浮気したら殺すからな」

「あ、当たり前じゃない、そんなこと絶対ないよ。あはは、やめてよ、殺すなんて」

「榎本さんが男嫌いで無くなったら、坂本なんかすぐに捨てられるな。

殺されるか、捨てられるか、その日が楽しみだな」

近藤の言葉に発令所に坂本を除く皆の笑い声が響く。

「それじゃ、我々は桂浜に向かいます」

近藤がそう言い、陸自の皆や土方、武市、岡田がハッチへ向かい始めた時、坂本が叫ぶ。


「ねえ、みんな、ここから出発する時、僕がさ、旅立ちは1月2日午前7時丁度、覚えておこうねって言ったじゃない。

どうだろう、その1ヵ月後の2月2日午前7時に又、集まろうよ。

ねえ、そうしようよ。折角みんなですごいことをやったんだからさ。いいでしょ、榎本さん、近藤、みんな」

近藤達が足を止め振り向き、そしてみんなが頷くのを見て坂本は笑顔で歩き出す。

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