第8話 「大工さんって凄い」

 家同士を繋ぐように飾り付けられた色とりどりのガーランドは、馬車に揺られて街の外を目指すシエルのための花道のようになびいている。

 全ての家のドア横に飾られているスワッグは、ネモフィラやゼラニウム、ガーベラなど、様々な花で作られ、家々を彩っていた。


 シエルが禁域へと移住する今日この日。


 王都は色鮮やかに飾り立てられていた。


「救世主さまー!!」「お元気でーー!!」「たまには遊びに来てくださいねー!」「こっち見てーー!!」「「きゃーーーー!!救世主さまーー!」」「道中、お気をつけてーー!」


「なにこれぇ……」


 馬車に乗っているにも関わらず、ドアも窓も突き抜けて耳に刺さる歓声。

 祭りがあるわけでも無いのに、華やかに飾り付けられた王都。

 はしゃいで騒ぐ子供達。


「誰も彼もが、シエル様に感謝し、尊敬し、別れを惜しんでいるんです」


 目の前に座る第三王子は、少々引き気味な救世主に言い聞かせるようにそう言った。だから混雑を避けるために、馬車で王都の外へ行くのだと。


 シエルはその言葉を受け止めて、受け入れ切れず、ゆるりと微笑みを返した。


 馬車は禁域へと進んでいく。


 人々と感情から逃げるように。


 やがて馬車は外へと踏み出す。



 一抹の罪悪感と、一縷の羨望を残して。




 一人の救世主の生き様に、幕は下りた。





* * * * * * * 魔瘴の森 入り口 * * *


「オニエル殿下。こんなところまで付き添いいただき、ありがとうございました」

「いえいえ。道中何事も無く、シエル様とお話も出来て楽しかったです。どうかお身体にお気をつけて」



 魔瘴の森に着いたシエルは、『試練』の際に見つけた住めそうな場所に向かいながら、森を散策する。


 魔瘴の森は『禁域』。人が足を踏み入れることは全くない。手を出すこともあり得ない。

 そのため、他の地域では希少なもの、或いは絶滅したとされるものが生息・群生している。

 学者などはそれらを持ち帰り、研究や栽培をするのだろうが。残念ながらここにいるのは、目敏く見つけては、すぐさま採集し銭勘定をする、がめつい女だけである。



 歩き始めて3時間ちょっと。

 視界が開けたかと思えば、そこには青く透き通る湖と、その中心にポツリとある陸地が見える。


 緑魔法を使って植物を操り、橋を架ける。橋に結界を張って、強度を上げながら湖の中心へと向かう。


(えーと。取り敢えず家建てるかな)


 湖に囲まれた陸地に木は生えていない。地面も、少し整えるだけで十分平らになる。


 想像するは上から見て六角形、2階建ての木造建築。

 ひとまず、家の基礎と1階分の壁、床、屋根は今日の内に建てなければ、快適な睡眠も満足にできない。



 まずは土魔法で家の基礎を作る。地面を固め、家の広さを決める。


 緑魔法で柱を立て、床を張り、窓をつける部分を考えながら壁を作る。


 緑魔法で屋根を作り、その上から土魔法で葺く。


 仕上げに窓代わりと強度を上げるため、結界で全体を覆う。



 これで家、少なくとも寝床を作ることができた。


「よし、寝よう」


 世界を救った救世主は出来上がった自宅に入るや否や、すぐさまベッドを置き、吸い込まれるように眠りについた。

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