第30話 月下狂乱
「ねえ、ここで、しちゃわない?」
考えていることは淳史も一緒だったようで、私たちはいったん公園を出るふりをして踵を返し、再び人気のなくなった公園に忍び込んだ。
折しも空には満月、私たちは、月あかりとスマホのライトを頼りに歩を進めた。
LUNATICという英語がある。「狂気の」とかいう意味だ。LUNAは月、月の光で狼男も変身する。私たちは月の光を浴びて、二頭の獣になって愛し合った。
あずまやのベンチで、私は下着を脱ぐと、浴衣だけを羽織ってそのまま淳史の上に跨がり、最初は背中を向けて、途中からは対面で、私は淳史の上で身体を揺らした。
二回戦は、罰当たりにも、ベルツ博士(どこのどなたか存じませんが、えらい博士だったらしい)の銅像の台座に手をついて、ひげ面の博士のご尊顔を拝しながらだった。
三回戦は、河原の中にある足湯のベンチに横になり、人目が全くないのをいいことに、私はとうとう浴衣も脱ぎ捨てた。
ベンチは温泉の熱で床暖房のように暖かく、ひんやりとした秋風が火照った身体に心地よい。
川の流れの奏でる音をBGMに私たちは愛し合った。
周囲に人工の灯りはない。淳史の肩越しに見える月の光に照らされて、彼の裸身がぼんやりと浮かび上がる。
林の中からは、鳥だろうか、ぎゃーぎゃーという不気味な鳴き声が聞こえる。
この自然の中に、人間は私たち二人だけ。生まれたままの姿で抱き合っていると、なにやら荘厳な、畏れ多いような気分になってくる。
三回戦を終えたところで、下着をどこかに置き忘れてきていたことに気が付いた。この暗闇ではもう探しようがない。それどころではない。風に飛ばされてしまったのだろうか、私の浴衣もない。
いくら深夜とはいえ、全裸でホテルに帰るわけにはいかない。やむなく淳史の浴衣を二人羽織≪ににんばおり≫の要領で二人で身につけた。
ホテルに戻り、ロビーに人がいないのを確認すると、預けた部屋の鍵を受け取るべくこっそりとフロントで係りの人を呼び出した。
気の毒に、夜勤の係りの人、怪しいことこの上ない私たちに、かなり仰天した様子だった。
適当に嘘を交えながら事情を説明し、何とか鍵を受け取ると、万が一にも人に出会わないように、二人身をひそめながら部屋に戻った。
部屋に戻ると、姿見に映った自分たちを見て、その滑稽さに二人で大笑いした。
無事に部屋に戻ってほっとしたら、またエッチな気分になったのだろう。淳史の硬くなったものが、私の背中に当たっている。
「ねえ、淳史」
河原で三回戦を戦ったばかりの私たちは、寝室に場所を移すと延長戦に突入した。
「燃え尽きたぜ…真っ白にな…」
東の空が白み始めたころ、私たちはようやく泥のような眠りに落ちた。
*注:実際の「西の河原公園」は、多分夜間は立入禁止と思います。
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