第29話 温泉旅行

 俺と姫様たち五名は、「翔太さまハーレム(仮称)」の運営について、週一定例ミーティングを行っている。


 そのミーティングで、で星≪あかり≫姫から提案があった。 

「翔太と会うのが、王宮の敷地内だけではつまらないじゃない。順番に翔太と二人っきりのお泊りデートしませんか」


 星姫の提案に葵姫、雅姫が即座に賛同し、楽しそうなので俺も賛成に回った。

「万一バレるとやばいことになる」という、オブザーバー兼お目付け役の冴島さんの慎重論は「気を付ければ大丈夫」という根拠のない楽観論に押し切られ、この提案は多数決で可決された。


 最初にデートプランを立ててきたのは、やはり星姫だった。

 彼女の希望は「一泊二日で温泉でしっぽりしたい」とのこと。彼女が選んだ行先は草津温泉だった。


 ようやく秋本番、山間の温泉地の木々が色づき始めた頃、俺は王室庁の車を借りて、姫様と二人、現地に向かった。

 

 星姫様が選んだ旅館は、温泉街の中心にある湯畑からもほど近い老舗旅館だった。

 あくまでお忍びということで、俺は、俺と冴島さんの名前でチェックインを済ませた。


 通されたのは露天風呂付の和室にベッドルームが付いた、なかなかに豪華なお部屋だった。

 女将に「夕食までまだ時間があるのでお連れ様とお二人でどうぞ」と勧められ、早速二人で夕陽を見ながら湯船につかった。


「はー、気持ちいい、しあわせー」

 姫様が俺の肩に頭を乗せながら言った。十分満足してくれているようで、俺まで嬉しい気分になってくる。

 

「ねえ」

 星姫が顔を寄せてきたので、俺たちは長い、長いキスをした。少しエッチな気分になりかかったが、夜は長い、ここはキスまでで自重した。


 夕食は、部屋で、上州牛のステーキがついたコース料理に舌鼓を打った。


 夕食後は二人で散歩に出ることにした。

 星姫は亜麻色のヘアウィッグにカラーコンタクトで変装、浴衣に下駄ばきで宿を出た。

 

 草津温泉と言えばやはり湯畑、夜はライトアップされていて幻想的だ。外国人観光客も多く、幸い誰も星姫に気が付く様子はない。

 それをいいことに俺たちは恋人同士のように手をつないで歩いた。


 湯畑のある温泉街から、観光客相手の飲食店やお土産屋さんが並ぶ西の河原公園≪さいのかわらこうえん≫通りを、お店を冷やかしながら歩いた。十分ほど歩くと、お目当ての「西の河原公園」に到着した。


 この公園は、河原のいたる所から温泉が湧き出す、湯けむり漂うお散歩エリアだ。遊歩道がしっかり整備されて、あずまややベンチも設置され、河原の中には足湯の設備もある。

 

 こちらも夜となればライトアップされる観光スポットだが、湯畑ほどの人出ではない。

 ライトに照らされ浮かび上がる荒涼とした河原が風景は、とても幻想的で、この世のものとは思えない。

 ここでも俺たちは、足湯に浸かりながら、人目もはばからずキスを繰り返した。

 香港人らしき団体さんが俺たちを指さし「アイヤー」とか言っているが、もうそんなこと気にしない。


 ライトアップは午後十時で終了、観光客たちは三々五々ホテルに戻っていった。

 俺たちも宿に戻るべく歩き出したところで、姫様が俺の耳元で囁いた。


「ねえ、ここで、しちゃわない?」


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