第34話 実家訪問

 私、葵姫は、翔太様とのお泊りデート旅行の地に、翔太様の出身地、京都を選んだ。


 今から1200年もの昔、私と翔太様の遠いご先祖様であるカンム王がこの地を都に定めた。以来、その子孫の王たちは、この地で、民の平和と繁栄を願いながら、長い年月に渡り政≪まつりごと≫を行ってきたのだった。

 この古≪いにしえ≫の王都を離れて150年、我々王家のルーツである京都を、是非地元出身の翔太様に案内していただきたいと思ったからだ。

 

 それに、翔太様のご祖父にも会ってご挨拶したいし。


 翔太様には一日早く京都入りしてもらい、ご祖父にはあらかじめこれまでの経緯や私がご挨拶に行くことをじっくり説明しておいてもらうことにした。


 翔太様のお母さまは彼が小学生の時にご病気で亡くなったそうだ。

 お父様は京都でも老舗の商事会社に勤めていたが、彼が中学生の時に出張先の海外で交通事故で無くなられたと聞いている。

 それ以降、東京の大学に進学するまで、彼は骨董屋さんを営む父方の祖父母に引き取られた。

 その祖母も数年前に他界し、今はおじい様がお一人で店を切り盛りしてらっしゃるという。

 

 翔太様が雅姫とフルマラソンを走る十日ほど前、京都の町が色鮮やかに紅葉に染まる頃、私はボディガード役の冴島と二人、早朝の新幹線で京都に降り立った。

 彼の実家は左京区の一乗寺という場所にあった。私鉄のターミナル駅から山に向かう二両編成の電車に乗り換えるのだが、私たちは、冴島の手配したレンタカーで向かった。

 

 店先で翔太様が待っていてくれた。

 お店は、広すぎない店内に、様々なものが雑然と並んでいた。

「古くて面白いものがあれば何でも扱う、骨董品屋というよりも古道具屋だ」と翔太様は謙遜するけど、玉石混交というのだろうか、きっとすごい値打ちものもあるのだろう。


 店内にお客さんはいなかった。立地の関係もあり訪れる人は少ないが、蔵にはまだまだ貴重な品もたくさん眠っているという。京都では知る人ぞ知るお店で、老舗の骨董品屋さんとも親交があり、国内外の顧客とインターネットを駆使して商売をしているらしい。


 冴島には車で待ってもらって、翔太様と二人でおじい様に対面した。

 群青色の作務衣姿で現れた翔太様のおじい様は、この年齢の人には珍しく、翔太様と同じくらいの背丈の偉丈夫だった。

「これは、これはお姫様、こんなむさくるしいところへ、ようこそおいでくださりました」

 にこやかにお辞儀をするその姿は、いかにも好々爺という印象だ。


 おじいさまは、自分が王の玄孫≪やしゃご≫だということも知っていて、翔太様の話を聴いてもさほど驚かなかったそうだ。


 メイジのご一新の直前の、幕末の混乱期のことだ。当時の王様は一夫多妻制が当たり前で、翔太様と私のひい爺様のひい爺様にあたるコーメイ王にも複数の側室がいたそうだ。

 やんごとなき身分の正室の女御さまには跡継ぎの男子が生まれなかった。そこで側室の子の中から一人が選ばれて、女御様の養子として立太子された。

 皇太子は養父のコーメイ王様が夭折されたため若くして即位された。それがご一新の時の王様で、大和国民で知らない人はいないメイジ王だ。


「歴史の大転換期でございました。側室の子のままだった私の曾祖父はすっかり旧社会に置き去りにされ、忘れらてしまいました」

 おじいさまは訥々≪とつとつ≫と語った。

「様々な外圧、国難に立ち向かわれたメイジ王は、名君として国民に慕われた。これで良かったと思うております」


「現法律下では翔太に王位継承権が生じるようでございますが、よく探したものよな。側室の御子という選択肢があった時代ならともかく、今の世で、そこまで男系男子にこだわる必要があるのでしょうかの」


「私の父もそのようなことを申しておりました。ただ王の継承のありようについては、法律で定められておりますので」と葵姫。


「その法律のせいで、姫君は翔太と娶せられることになったと。それでよろしいのですか?」


「私は、翔太様が王位継承権を持ってらっしゃるからお慕いしているのではありません。むしろ翔太様とめぐり合わせてくれた法制に感謝をしています」


「それはそれは。王族とはいえ男と女、それが一番でございます。うちの翔太とは、身体の方もしっかり和合していただいているということでございますかな」


「はい、それはもう」

 って、何を言わせるんだ、このじいさん!

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